ICCC という会議があるそうです。

こちらの nytola さんという方のブログで知りました。


Climategate、IPCC-Gate後の世界 -- nytola の日記
http://d.hatena.ne.jp/nytola/20100708/1278644370


nytola さんという方は、アメリカ在住の研究者?で、アメリカの懐疑論事情にとてもお詳しい。私なんか、足下にも及びません。以前、とても多くのブクマを集めた懐疑論のブログ記事がありました。


科学史上最悪のスキャンダル?! "Climategate" -- 化学者のつぶやき
http://www.chem-station.com/blog/2009/12/-climategate.html
そのブクマ
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.chem-station.com/blog/2009/12/-climategate.html


私も、著名なブロガーにしてリバタリアン経済学者の池田信夫さんの記事で見つけて読みに行ったのですが、多くの懐疑論が網羅されていて大変ためになりました。そして、この記事は "(*筆者が尊敬する科学者H.M氏より情報提供・ご協力を得ての執筆です)" 。H.M さんがこの nytola さんだそうです。


nytola さんによると、

欧米では昨年11月のClimategate事件を発端にIPCCや温暖化のウソが連日のようにニュースで報道されたため、状況は一転しています。日本のマスメディアも、地球温暖化の科学が現在進行形で崩壊していることを、ちゃんと報道すべきではないでしょうか。


もはや、欧米では地球温暖化論がうち捨てられようとしているそうです。日本だけみたいですね、地球が温暖化しつつあると思っているのは、そして、温暖化対策をがんばろうとしているのは。


さて、本題。nytola さんの記事には、ICCC という会議について書かれています。

今年の5月、シカゴで『第4回気候変動に関する国際会議(ICCC)』が開かれました[1]。国連IPCC気候変動に関する政府間パネル)と名前こそ似ていますが、ICCCは人為的CO2温暖化説に否定的な研究者(懐疑派)が中心となっている国際会議で、アルファベット一文字違いながら中身は随分と異なります。


多数の温暖化懐疑論が展開されたようですね。一方で、温暖化論者も発表した模様です。

懐疑派のトークばかり取り上げましたが、ICCCには脅威派の研究者も招待されており、コロラド州立大学のScott Denning教授もスピーチを行いました[12]。懐疑派の国際会議で、脅威派の研究者が温かい拍手で迎えられ、和やかに議論が進行する。当たり前のことのようですが、もし逆の立場で懐疑派の研究者が脅威派の会合に出かけたら、無視されれば良い方でしょう。科学とは無関係の誹謗中傷を浴びせられることも珍しくないです。


ICCC、とても素敵な学会だったみたいですね。なんか、いーなー、このほんわか感。懐疑派と脅威派が仲良くやるなんて、すてきではないですか。


ということで、web をさまよってしらべてみました。ICCC は今回で 4 回目。シカゴで開かれました。

Welcome to the Fourth International Conference on Climate Change -- The Heartland Institute
http://www.heartland.org/events/2010Chicago/


主催はこのホームページを持っている Heartland Institute という、アメリカのシンクタンクです。英語版の Wikipedia の記事はこちら

The_Heartland_Institute -- Wikipedia (英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Heartland_Institute


このシンクタンク地球温暖化の他には、たばこについて、禁煙に反対し、受動喫煙の害を訴える研究を批判する活動を行っているそうです。おもしろいですね。保守系のようで、その他にも政府支出や税制、健康保険、IT などについての提言を行っています。


環境問題では、free-market environmentalism とやらを推進されているとのこと。規制で対応するのではなく、市場と財産権を尊重し、違反に罰則で対応することが環境問題への適切な処方箋だという立場だそうです。これも、アメリカの保守派が掲げる立場ですね。あ、先に触れた池田信夫さんも非常に近い立場だと思います。Wikipedia による説明はこちら。


Free-market environmentalism -- Wikipedia (英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Free-market_environmentalism



さて、なにか ICCC について報道があったかな、と思って探してみると、BBC が取り上げていました。

Climate sceptics rally to expose 'myth' -- BBC
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8694544.stm


こんな感じだったそうです。

The audience, containing some international faces, but mostly American libertarians and Republicans, loved the small-government message.


They cheered when a member of the audience demanded that the "Climategate criminals" - the scientists behind the University of East Anglia (UEA) hacked emails - should be jailed for fraud.

私の不満足な英語力で訳すと、こんな感じでしょうか。

聴衆、外国人もいないではないが、おもにリバタリアン共和党員からなるアメリカ人からなる聴衆は、「小さい政府」メッセージを好んだ。


一人が "クライメイトゲートの罪人ども" -- UEA e-mail ハッキング事件に関係した科学者達 -- を詐欺で牢にぶち込めと叫ぶと、出席者はやんやの歓声を上げた。


………。


え、えっと、ま、そのー、私に英語力がないのでよくわかりませんが、nytola さんのおっしゃるとおり、とっても和やかに議論が進行していたみたいですね。


英語のわかる方は BBC の記事を是非読んでください。どれだけ和やかだったかがわかります w


さて、今回の ICCC、BBC が報道してはいますが、以前はマスコミではあんまり取り上げられてこなかったとのこと。こちらのブログによると、その理由として ICCC 側はマスメディアに浸透するリベラルの陰謀だと考えているみたいです。ブログ主さんは違う意見みたいですが。


Denial-a-palooza Round 4: 'International Conference on Climate Change' Groups Funded by Exxon, Koch Industries -- DESMOGBLOG.COM
http://www.desmogblog.com/denial-a-palooza-4th-international-conference-climate-change-heartland

As in years past, the event is expected to receive very little mainstream media coverage. The deniers like to think the reason is some liberal media conspiracy. In reality, the lack of interest stems chiefly from the fact that this denial-a-palooza fest is dripping with oil money and represents a blatant industry effort to greenwash oil and coal while simultaneously attacking the credibility of climate scientists.

訳するとこんな感じ?

ここ数年とおなじように、今回のイベント (ICCC のこと) も主な報道機関からほとんど無視という扱いをうけそうだ。それを (政治的に保守派の) 温暖化否定論者達はリベラルな報道機関による陰謀だと考えたがる。でも、注目を集めない本当の理由は、このイベントにオイルマネーがじゃぶじゃぶと注がれており、石油や石炭を環境に良いと言いくるめつつ、気候研究者達の信頼性をおとしめようという産業界の意図が見え見えだからだ。


日本では報道されないだろうから、ということで nytola さんは ICCC のことをブログで紹介されたわけですが、DESMOGBLOG.COM さんによると、欧米でもほとんど報道されないだろうとのこと。ま、でも、この記事が書かれたのは 5/13。ICCC は 5/16 から 18 にかけて開かれたみたいなので、予想が外れて欧米で報道が大盛り上がりしていてもおかしくないと思います。climategate 事件後、最初の ICCC だったわけですしね。


で、DESMOGBLOG.COM さんによると、ICCC を主催した Heartland Institute、エクソンモービルから 10 年ほどの間にあわせて 600 万ドルほどもらっているとのこと。そのほかにも、エネルギー産業系のお金がたっぷり流れ込んでいるみたいです。


以前、江守正多さんが

 欧米の石油・石炭業界や保守系シンクタンクが、政府による温暖化対策の規制導入を妨害するためのロビー活動として、温暖化懐疑論・否定論を組織的に広めているというのはよく聞く話です。

と書かれていました。

温暖化イメージ戦争の時代を生きる -- 温暖化科学の虚実 研究の現場から「斬る」!(江守正多) -- 日経エコロミー
http://eco.nikkei.co.jp/column/emori_seita/article.aspx?id=MMECza000016032010


この ICCC は、そんな活動の典型例ですね。


それにしても。


アメリカってパワーが有りますよね、企業もシンクタンクも、そして懐疑論者も。


自分の意志を押し通すためなら何でもやる、このパワー。温暖化懐疑論者は保守系シンクタンクと結びつき、シンクタンク側はそこから「科学」のお墨付きを得、それを石油会社に「売って」金を引き出し、石油会社もその成果を利用する。


お互いを利用し合ってごりごりと進んでいく。


日本では考えられません。まず、独立系のシンクタンクというのがない。政府系や大企業にくっついていないと生きていけない。懐疑論者は結びつくべきシンクタンクはなく、温暖化対策によって不利益を被る企業と懐疑論者の間を取り持つものがないのです。それに、日本の企業だってチキンです。温暖化懐疑論みたいな研究にお金を出したことが知れた時のリスクが怖くて、いくら自分達のメリットになるはずのことでも支援できないでしょう。


そのため、懐疑論の発展が遅くなる。懐疑論者の言うことは、数少ない例外を除いて、欧米諸国からの輸入品です。とほほ。


日本の懐疑論者に足りないのはこのパワーなのだと思います。


せっかく懐疑論を研究しているのだから、なんとか金を取ってきて大々的に研究してほしい。日本の政府や企業じゃダメでしょう。だけど、アメリカの石油会社とか、資源豊富などこかの発展途上国の政府、アラブか何かのお金持ちをたぶらかしてお金をせしめるぐらいのバイタリティがほしいところです。


お金の出所などどうでも良いではないですか。大事なのはそこから生み出された成果。泥中の蓮華ということばがあります。蓮は汚い泥の中より出でてきれいな花を咲かせる。ちょっとちがうかな?


とにかく、金の出所は問題ではない。どんな金であっても、すばらしい科学につながれば、結果オーライです。オイルマネーで支援されている ICCC の科学は、nytola さんのブログを見る限り、あんまり魅力的ではありません*1。いまのところ、所詮は石油会社によるロビー活動と思われても仕方ない結果がほとんどです。しかし、大量の資金にものを言わせて研究すれば、今後、すばらしい科学が生まれてくる可能性がゼロではないことは、だれも否定できないでしょう。


nytola さんのおっしゃるとおりであれば、Climategate 事件で温暖化論は大打撃を受けたわけです。でも、あれは所詮はスキャンダル。人為起源温暖化を唱える IPCC にとどめを刺すのは、最終的には科学なのです。


是非とも日本の懐疑論者の人たちにはがんばって研究に励んで頂き、すばらしい科学の成果をあげ、そして、IPCC の向こうを張った、同じくらい重厚な懐疑論レポートを出版して頂きたいものです。


ま、無理でしょうが。<追記>
http://d.hatena.ne.jp/nytola/20100708/1278644370#c1279065144

ICCCを報じた外国のメディアでも、例えばオーストラリアのQuadrant誌は懐疑論を専門的に論じており、ICCCに極めて好意的なレポートを載せています。

http://www.quadrant.org.au/blogs/doomed-planet/2010/05/heartland-4


Quadrant (magazine) -- Wikipedia (英語版)
http://en.wikipedia.org/wiki/Quadrant_(magazine)

Quadrant is an Australian literary and cultural journal.


The magazine takes a conservative position on political and social issues, …

*1:いや、ある意味、魅力的ではありますが、まあそれはそれ。