記者は研究者の敵なの?と

思いました。こちらの togetter 、というより、それに対する反響を見て、です。


科学報道を殺さないために−研究機関へお願い - Togetter
http://togetter.com/li/391591

科学報道を殺さないために−研究機関へお願い - Togetter -- はてなブックマーク
http://b.hatena.ne.jp/entry/togetter.com/li/391591


ayafuruta さんは書かれます。

大学や研究機関が研究発表・取材を一元管理せよ、との声が散見されます。そう仰る理由もよくわかります。ですが,それをしたら科学報道は死にます。(続)

一連のツイートのはじめの方に書かれたこの言葉、ayafuruta さんが最も言いたいことなのだと思います。その後の tweet もこの文脈で読むべきでしょう。


私は ayafuruta さんのおっしゃることに共感します。科学も人間の営みだとすれば、科学報道にも多様なチャンネルが必要だと思うのです。


ですが…。そういう人は少ないようで。


この togetter のコメント欄や、はてなブックマークには私のような感想を抱く人は少数派、多くが批判の声を上げています。


まるでマスコミは科学の敵みたい。


でも、本当にそうなのでしょうか?


確かにニセ科学的な記事が紙面を飾ることはありますし、今回の iPS 細胞に絡んだ件のような、膝の力が抜けるようなとんでもない誤報も少なくありません。私もこのブログで多くの新聞記事を批判してきました。


でも、総じて見れば、まあまあ妥当な報道がなされているのではないでしょうか。諸外国と比較してレベルが低いというようなことはあるかもしれませんが、どうなんでしょうね。


もしレベルが低かったとして、それならなおのこと、取材を一元管理にすべきではないと思うのです。研究機関のプレスリリースを読むだけでは科学報道のレベルなんて上がるわけがない。


いろいろ思うことがあるのですが、一つだけ。


ayafuruta さんの tweet にこのようなものがありました。

現実には、「書くため」に必要な取材をちゃっちゃかしようとすると、研究者さんも「早く済まそうよ」って感じですが、本気で理解するために質問していると目つきが変わり、ペンを取って式やグラフを書き始めます。こうなると時間なんてぶっ飛びます。

気がつけば6時間、8時間ということもザラにあり、空腹か疲労でバテるまで続きます。そういう取材を何度かしていると、咄嗟に携帯に電話できる関係になります。私が言ったのは、そういうことです。


「時間なんてぶっ飛ぶ」!


なんて二人は幸せな時間を過ごしたのだろう、と思います。


研究者は、表現者です。なんだかんだ言って自分のことを聞いてもらえるのはうれしいのです。性格や表現の巧拙こそあれ、心の底では自分の研究を語りたいと思っている。普段は無口なのに、自分の研究のことになるととたんに饒舌になる、研究者の知り合いがいる人なら、そんなタイプの研究者もご存じでしょう。


私、なんの取り柄もない研究者ですが、一度だけサイエンスライターの方とお話をする機会がありました。6 時間とまではいきませんでしたが、それなりに長くお話をしました。そりゃもちろんライターさんの知識は私より劣るわけですし、それは違うよ、と思うこともすこしだけありました。でも、ライターさんはプロでした。普段口にしたことがない私の思いまで引き出してもらえて、私としては得がたい経験でした。ええ、幸せでしたよ。*1


だから、上のようなツイートを読んむと「幸せそうだなぁ」と考えてしまうのですが、そんな私は大変ナイーブなようですね。


上のような tweet を読んで、記者さんがあまりにもとんちんかんで研究者が誤解を解くのに苦労したのだろう、とか、誤解と先入観に沿ったコメントを求めてくる記者に研究者が逆上したのだろうとか書かれている方がいます。確かに疲労でばてますよね。とっさに携帯に出来る関係とは、記者が一方的に研究者を利用していると言うことでしょうか。


また、研究者の負担、研究者への対価ということを強調されている方も多い。記者側のただ乗りだ、と。そうかもしれませんね。いいように利用される状況では「気がつけば6時間」という幸せなんて、あり得ないのかもしれません。疲労と空腹に、俺の時間と金を返せ、ってな気になるのでしょう。


”世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?”といわれる国ですもの、研究者が時間を取ってマスコミのお手伝いをしている余裕なんてないですよ、わかります。


ま、でも、私の周りには自分の研究について聞かれたら嬉々として延々と語る人は少なくありません。そのなかでもある種の人は記者さんたちと良い関係を築いているようです。


そんな幸せな出会いが一つでも多く産まれますように。

*1:え、サイエンスライターは記者ではない?たしかにそうですね…

またひとつ、

裁判が終わる…


何年も追って参りました、槌田さんの裁判ですが、そのうちのひとつ、東京大学を訴えた訴訟に判決がでたようです。関係者の皆様、おつかれさまでした。こちらの近藤邦明さんのページにありました。


東大IR3S名誉毀損訴訟判決速報 -- 環境問題を考える
http://www.env01.net/frommanager/2012/fm2012_17.htm#n781


で、結果ですが、

結論的には、あまりにも予想通りの原告側の完全敗訴です。

ということで、槌田さんの敗訴だそうです。あらら、近藤さんも敗訴を予想されていたんですか。私と同じ意見だったのですね。意見が合うなんて珍しいことです。


折にふれて拝見していましたが、裁判のたびに東京大学は失態を演じているような記述が見られましたので、近藤さんは、勝利への手応えを感じておられたのかな、と感じていました。


それが判決が出ると "予想通りの原告側の完全敗訴" orz... 。


近藤さんは書かれています。

 フクシマ後の司法の対応から見ても明らかですが、この国の司法は国家や権力組織からの独立性などまったく意に介さず、あからさまに国家権力と結託していますから、あまりにも当然過ぎる判決でしたが、暗澹たる気持ちは拭えません。


 私個人としては、気象学会や東大による学問・言論の自由に対する妨害行為と彼らの無茶苦茶な理論を裁判所の公文書に残すという最低の目的は既に達したので、これ以上無能な裁判官に関わって無駄な時間を費やす必要はないと考えています。ただし、私は裁判の当事者ではありませんので、今後の対応は槌田さんの判断を待ちたいと思います。


私も暗澹たる気持ちがぬぐえません。


裁判の資料に自分たちの意見が残ることへの価値を強調されています。読む人も少なく、その上、"敗訴" というレッテルが張られているのに。そんなところに価値を見いだすとは、槌田さんやその周囲の人たち、どれだけ追い詰められているのでしょうか。


とはいえ、実際は悲壮感なんてないのでは、と想像しています。槌田さん側は弁護士を立てませんでした。訴状や上申書は過去の業績の強調と感情の吐露が中心で、法理を尽くして相手に迫る部分がありませんでした。私には、そもそもあるなど、勝とうとする意欲が感じられなかったので。


さて、この後どうなるでしょうか。地裁判決が出たところですので、控訴という手は残されています。ただ、時間の無駄、というのは、激しく同意。それでも、個人的には裁判を続けて頂きたいと思います。面白いので。


とはいえ、本当は槌田さんにはエントロピー気候学を完成させて頂きたいものです。それが、人類社会への最大の貢献だと思うのですが。


あ、あと、原発問題でも頑張って頂ければと思います。


これまでの経歴を考えると、もっとスポットライトが当たってもよいとおもうんですよね、槌田さんには。だから、裁判を起こしたことによって、なんか「めんどくさい人」になっちゃったのはまずいと思うんですよね。*1 温暖化懐疑論を唱えるのも、環境問題に関心のある層との関係で言うと不利だったかも。


いえ、信念ならば仕方がないのですが。

*1:そういえば、判決後に記者会見をする話はどうなったのだろう

気候変動・千夜一話のページに SPEEDI の

記事が出ていました。masudako さんが書かれています。


原子力防災と気象学会・気象学者のかかわり -- 気候変動・千夜一話
http://blog.livedoor.jp/climatescientists/archives/1745333.html


おっしゃることに全く同意します。同意するところをいちいち引用したいほどですが、全文になってしまうので、一カ所だけ。

緊急時でない今ならば単位量放出をじっくり説明することはできます。ふだんから単位量放出を見慣れていれば、緊急時にも「単位量放出です」と言って出すことができるのです。大飯の発電所の稼動を始めるにあたって、毎日「きょう大飯から単位量放出があったらどう広がるだろうか」というシミュレーションをして結果を公開することは、福島の教訓の応用として当然行なわれるべきだとわたしは思います。まだ行なわれていないことにあきれております。


"あきれております。" … ですよねぇ。


福島の教訓とはなんだったのか。反省は口だけなのか。


行政と電力会社はしっかりやるべきだと思います。


日頃から訓練していなければ、非常時に適切な行動なんてとれません。事故に備えて市民を教育 *1 しておく必要があります。また、逆に市民からフィードバックをもらってよりよい情報公開を模索することも可能。


きちんとした情報公開こそが、「福島の教訓を生かす」ということではないでしょうか。そのひとつとして、SPEEDI による日々の予想の公表はなされるべきです。


…。でも、やらないよねぇ。だって、毎日、危険そうな色の等高線が自分の住む地域を覆ったり覆わなかったりするのを見るのは、あんまり気分の良い話じゃない。シミュレーション公開で再稼働にぬるい支持を与えている人たちの意見を変えてしまいそう。国や電力会社は乗り気じゃないと思います。


で、思ったのですが…。


環境保護団体の方、そして、脱原発運動の方、放射性物質拡散の予報を出してみませんか?


いえ、コンピュータの進化により、SPEEDI 程度のシミュレーションなら大きめのサーバがあれば出来るようになってるんですよ。大飯だけに限るのであれば、それで十分でしょう。高価なスパコンなんて必要ない。


モデルは SPEEDI を使うことは出来ないかもしれませんが、世界に目を転じればフリーのものがあるのでなんとかなると思います。問題は、気象データですかね。これは個人で費用を出すにはやや高い。でも、ちょっと大きな団体ならなんとかなるのではないでしょうか。


あ、あと、モデルを動かせる人を雇う人件費は高いかもしれません。まあ、高いって言ってもたかがしれていますが。あ、人材を捜すのも伝手がないと大変か。


そう考えると、NPO には難しいかな。でも、地方自治体なら何とかなるのではないでしょうか。大阪府とかだったら十分に可能なはず。気象系の研究室のある大学と協力するのもいいでしょう。


行政や電力会社が情報を独占しており、代案を示しにくいのが、これまでの脱原発側のつらいところでした。 *2 自前のシミュレーションが、そんな状況に風穴を開けるのではないでしょうか。


実は行政の側も待ち望んでいるのかもしれませんよ、そんなライバルの出現を。まろりいさんが書かれていました。

再稼働反対デモに送るエール -- 霞が関公務員の日常
http://ameblo.jp/georgemallory/entry-11295179658.html

 原子力に限らずあらゆる政策で、大胆だけど実現可能な対案を作れる集団(アメリカのシンクタンク的な)が生まれ、官僚組織と切磋琢磨するようになることを、一官僚としても望んでいるところ。

放射性物質拡散のシミュレーションによって、事故対策については、より真剣な討議ができるようになると思います。


まとめます。


国や電力会社は SPEEDI を用いた予測の公表を日々行うべきです。そして、マスコミもそう訴えるべき。3.11 における SPEEDI の運用についていまさら叩いているマスコミを見るとあほかとおもいます。*3


でも、国も電力会社もマスコミも、「福島の教訓を生かす」意志はなさそう。


それなら、NPO地方自治体がやればいい。今のコンピュータなら、そこそこ現実的な予測が出来ます。SPEEDI ほどの完成度を目指さなければ、毎年数百万円を投じれば可能でしょう。*4


個人ベースでは難しいけど、団体の力ならなんとかなる。国や電力会社に頼らなくても。


着実に出来ることをやっていくことが、発言力のアップにつながるのではないでしょうか。


脱原発運動も、デモで示威するだけではなく、 *5 より学術的、定量的で説得力のある原発批判を行ってもいいはず。そして、放射性物質拡散のシミュレーションは、現実的な費用で出来る中ではもっとも効果的でしっかりとした原発への批判の一つになると思います。脱原発運動の実力者の方、検討してみてください。<追記>
ありゃりゃ、滋賀県はすでに SPEEDI を使っていたんですね。

原子力は民間企業では縮小できない -- 日経ビジネス online
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120712/234391/?P=5
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120712/234391/?P=6


上の私の提案、ちょっと間抜けでしたか…。とほほ。


なお、大飯原発関連での経緯は、グリーンピースのブログが詳しい。


大飯原発福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図 -- 国際環境NGOグリーンピース
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/dblog/speedi/blog/41016/


ほんまかいな、と思わせる、福井県の公開した SPEEDI の結果の図が公表されています。リンクされている他記事もぜひ。


SPEEDI に頼らず自前でやる価値はあるとは思います。


さて、日経ビジネス online の記事には、大飯原発にまつわる関電の対応が書かれており、暗然としました…

植田:安全面では、うーん、驚愕することばかりでした。


 関西電力と話し合ったとき、向こうは何メートルの津波に対して、どうするとか、技術論ばっかり喋るんです。それで、では事故が起こったときの体制はどうですか、と当然、こっちは聞きますよね。そしたら、驚いたことに「事故が起こらないようにします」という答えやねん。びっくりしたわ(笑)。


 「答えになってない。それだけは、やめてくれ」と皆言いました。福島原発事故の最大の教訓は、「原発事故は起こる」ということや。だから起こったときの体制を整える。それは組織文化に根ざしています。でも変わっていないのよ。組織文化は変わらないまま、技術的にはいろいろやっています、みたいな話をされるわけやね。

植田:再稼働は政府が認めるとなっているわけだから、避難の方法とか考えてるはずやね。事故が起こったらこうなると予め把握できて、放射能の少ない避難路を検討できる。SPEEDIは、政府がやっているのだから、出せそうなものだけど、出さへん。福井県知事も言わない。


山岡:なぜですか。シミュレーションをして、放射性物質の飛散の流れが見えて自治体が特定されたら、風評被害が起きて、土地の値段が下がる、から?


植田:わかりません。仕方ないから滋賀県だけが知事(嘉田由紀子氏)の英断で、シミュレーションしたわけです。そしたら滋賀県内だけが、被害予想で色づけされた図が出てきた。大阪府市の我々も、知りたいからと滋賀県にお願いしてこっちのシミュレーションも出してもらった。そしたら、やっぱり大阪府市の範囲しかわからない。大飯の原発事故のシミュレーションで、地元の福井はもちろん他の府県は真っ白で、滋賀県大阪府市の放射性物質の流れだけがポッカリ公開された。なんのこっちゃです(笑)。


山岡:滋賀県知事はシミュレーション結果の公表で関西の経済界から凄い圧力をかけられた、と聞いてます。結局、政府が原発再稼働に踏み切った最大の理由は、電力需給の逼迫というよりは電力会社の経営問題ですね。


植田:そう。そこは、もはやはっきりさせたほうがいい。


福島からいったい何を学んだのか。

*1:上から目線と言われそうな言葉遣いですね、すみません

*2:つらいなんてこれっぽっちも思っていない脱原発関係者が多いように思えます。ネットを見る限り、そのように思えます。私の巡回範囲が限られているせいだとは思いますが。また、放射性物質拡散シミュレーション以外では、本当にすばらしい代案を提示されている方も、いらっしゃるのだと思いますが。

*3:もちろん、きちんとした検証報道は大歓迎です。でも、SPEEDI 報道をみているとそうでもないんだよな。すでにわかっている事実をさも新事実科のように紹介してみたり。この一年、何やっていたのか、と思う。

*4:人件費は除く…

*5:いえ、デモも大変重要です。意思表示は続けた方がよいと思います。

北極圏海氷モニターの

ページが再開されていました。しばらく見ていなかったので気付かなかった。


AMSER-E の運用終了に伴い、しばらく中断していたのですが、新しい衛星データを使っての再開です。それに伴い、ページも少しリニューアルされていました。


北極海氷モニター
http://www.ijis.iarc.uaf.edu/jp/seaice/extent.htm


さて、海氷面積ですが、2012/07/11 現在、史上最低ラインをなぞっていますね。


いえ、もう誰も驚きませんが。同じレベルの海氷減少が引き起こした 2007 年の衝撃が今年やってくるとは思いません。


我々はすでに温暖化に適応し始めている、のかな?


あ、逆に、2007 から減ってない、温暖化は止まったと主張するひともいらっしゃると思います。がんばってください。

久しぶりに近藤邦明さんの

HP をのぞいてみました。槌田敦さんが東大を訴えた裁判も終わりが近づいていて、そろそろ結審だったな、とおもったので。


結審は 6/12 だったのですね。もう終わっている。あとは判決を待つのみ、ですか。


ホームページには資料が出ていました。


東大IR3S『地球温暖化懐疑論批判』名誉毀損訴訟原告最終準備書面 -- 環境問題を考える
http://www.env01.net/frommanager/2012/fm2012_12.htm#n758


読んで、推測が多いな、と思いました。*1 あと、東大の行為で、どこがどのように法律に抵触しているのかがよくわからない。プロフェッショナルな文章には見えませんでした。やっぱり弁護士さんに見てもらった方が良かったのじゃないかな。


ま、これまでの審理で論理的に説明されているなら、最終準備書面であらためて論じる必要はないのかもしれません。


なにがなんだかよくわからないけど、とにかく槌田さんが東大を激しく憎んでいることだけはわかる、そんな最終準備書面でした。


さて、裁判官の心は動かされたのでしょうか?


ウォッチャーとしては、判決後、槌田さんが控訴、最高裁までもつれるという展開になることを望みます。もしくは、別な裁判でもどうでしょう。<追記>
近藤邦明さんのページ
http://www.env01.net/index02.htm
に下記の予定が書いてありました。

●2012年8月28日(火) 13:15〜 東京地裁411号法廷にて判決
●2012年8月28日(火) 16:00〜 文部省記者クラブで記者会見(予定)

だそうです。


マスコミの方にはぜひ取材に行って頂きたい。もしかしたら、槌田敦さんが勝つのかもしれませんよ!(超無責任発言…)

*1:あえて妄想とは書かない

いろいろと忙しく、しばらくご無沙汰しておりましたが、

コメントをもらったので久しぶりに記事を。


TSUNE さんから、こちらにコメントを頂きました。

http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20110920/1316516638#c1338551701

更新の滞っている過疎ブログに書き込んで頂き、ありがとうございます。こんなコメントでした。

気象学、気候学的に、大気中二酸化炭素が気候に影響を与えているという強い証拠があるのであれば、ぜひご教授いただきたいです。私は、気候変動のメカニズムについて、もうかれこれ5年ほど調べておりますが、いまだに、二酸化炭素温室効果を物理的に計測した実験結果を、見たことがありません。小中学校などで行われている稚拙な実験は、気体の比熱の違いが考慮されておりません。


せっかく書き込んで頂きましたが、TSUNE さんの問いに答えるのはいささか難しい。とりあえず二つほど書いてみましょうか。


回答1
二酸化炭素温室効果を物理的に計測した実験結果」であれば、二酸化炭素の赤外線吸収係数の計測があげられます。でも、計測の結果って、ウェブには意外に転がっていないんですよねぇ。教科書には載っているのですが。ざっとぐぐって見つけたのはたとえばこちら


Carbon Dioxide Absorption Spectroscopy near 6000 cm-1
http://www.chem.uni-wuppertal.de/quasaar/grenoble/files/perevalov.pdf


二酸化炭素が赤外線を吸収しているなら、地球の気温や大気の濃さなどの条件から、放射伝達論と熱力学の知識を用いると、温室効果があるということが導かれますので、これは事実上「二酸化炭素温室効果を物理的に計測した結果」です。


回答2
「気候学的」な「強い証拠」としては、現在の地球の平均気温が 14 ~ 15 ℃であって、大気が無いときに想定される -18 ℃ではないことです。ま、これは水蒸気の温室効果が一番大きく、その次に二酸化炭素、ということではありますが。


物理学のバックグラウンドを持つ気候学者にとって、以上の二つで十分に「大気中二酸化炭素が気候に影響を与えているという強い証拠」であり、もうほとんど自明のことではあります。


とはいえ、TSUNE さんが本当に聞きたかったことに答えられたかどうか…。


私には自信がありません。

日経新聞に京の次の世代の

スパコンに関する記事が出ていました。


「京」の100倍速…次世代スパコン、日本に遅れ -- 日経新聞電子版
http://www.nikkei.com/tech/ssbiz/article/g=96958A9C93819595E0E1E2E2958DE0E1E2E0E0E2E3E08AEBE2E2E2E2;dg=1;p=9694E0E7E2E7E0E2E3E3E7E1EAE6



医療や防災などの最先端研究分野で、引っ張りだこになっている理化学研究所などの世界最速スーパーコンピューター「京」。計算機開発や利用に携わる世界の研究者の間では、その「京」より100倍以上速い次世代の「エクサコンピューター」の実現に関心が集まっている。しかし、日本の取り組みは遅れており、政策面でも技術面でも課題は山積している。


ということで、欧米や中国ではエクサフロップス (10^18 flops, 一秒間に 100 京回) の演算性能を持つスパコンに向けた動きがあるのだけど、日本では事業仕分けからはじまる政治の無理解によって関係者のやる気がそがれている、と、日本におけるハイパフォーマンスコンピューティングの遅滞について警鐘を鳴らす記事です。


ふむふむ、と読み進めていてずっこけました。「京」よりも早い「エクサコンピュータ」が必要な理由に、地球温暖化がだしに使われていたからです。いえ、だしに使っても良いのですが、もうちょっと何とかしようよ。



技術面でもブレークスルーが必要だ。例えば日本が得意とする気候分野のシミュレーション(模擬実験)。大気中の二酸化炭素濃度は増加の一途をたどっており、温室効果に起因する気温上昇が予測されていた。しかし21世紀に入ってから、気温はほぼ横ばいだ。予測はほとんど外れているといえる。


おいおい。温暖化なんて 10 年くらい見ていてもいろいろな変動が重なっていて見にくいから、それで外れてるっていっちゃったらだめでしょう。確かに最高はまだ更新されていないかもしれないけど、暑い年は着実に増えているわけで。*1


池辺さんは以前もあれれと思うことをおっしゃっていて、このブログで取り上げたことがあります。*2 また、以前に学術会議が温暖化懐疑論関係のシンポジウムを開いたことがありましたが、そこでも客席から微妙に懐疑論な発言をなさっていました。


だからかな。こんな記事になっちゃったのは。


そのほかの気候関係のコメントについてはまあ悪いとは思いませんが、でも、記事全体を眺めてみると奇妙にねじくれた印象を受けました。


「技術面でもブレークスルー」と言ったときに、エクサコンピュータとして取り上げるべきことはいろいろとあるんですけどねぇ。何百万にもなるであろうコア間の通信をどうするのか、とか、省電力はどうするか、とか、多数のプロセッサがあると常にどこかでおこる故障をどうするか、とか、計算機科学的に重要なことがいっぱいあるわけで、*3 そちらをクローズアップした方が良かったのじゃないかなぁ。

*1:たとえば、気象庁のこちらのページ
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/temp/an_wld.html

*2:もう池辺さんの書かれた元記事はたどれなくなっていますが、こちらで取り上げました
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100410

*3:あと、費用も大事だとおもいます。