気候変動・千夜一話のページに SPEEDI の

記事が出ていました。masudako さんが書かれています。


原子力防災と気象学会・気象学者のかかわり -- 気候変動・千夜一話
http://blog.livedoor.jp/climatescientists/archives/1745333.html


おっしゃることに全く同意します。同意するところをいちいち引用したいほどですが、全文になってしまうので、一カ所だけ。

緊急時でない今ならば単位量放出をじっくり説明することはできます。ふだんから単位量放出を見慣れていれば、緊急時にも「単位量放出です」と言って出すことができるのです。大飯の発電所の稼動を始めるにあたって、毎日「きょう大飯から単位量放出があったらどう広がるだろうか」というシミュレーションをして結果を公開することは、福島の教訓の応用として当然行なわれるべきだとわたしは思います。まだ行なわれていないことにあきれております。


"あきれております。" … ですよねぇ。


福島の教訓とはなんだったのか。反省は口だけなのか。


行政と電力会社はしっかりやるべきだと思います。


日頃から訓練していなければ、非常時に適切な行動なんてとれません。事故に備えて市民を教育 *1 しておく必要があります。また、逆に市民からフィードバックをもらってよりよい情報公開を模索することも可能。


きちんとした情報公開こそが、「福島の教訓を生かす」ということではないでしょうか。そのひとつとして、SPEEDI による日々の予想の公表はなされるべきです。


…。でも、やらないよねぇ。だって、毎日、危険そうな色の等高線が自分の住む地域を覆ったり覆わなかったりするのを見るのは、あんまり気分の良い話じゃない。シミュレーション公開で再稼働にぬるい支持を与えている人たちの意見を変えてしまいそう。国や電力会社は乗り気じゃないと思います。


で、思ったのですが…。


環境保護団体の方、そして、脱原発運動の方、放射性物質拡散の予報を出してみませんか?


いえ、コンピュータの進化により、SPEEDI 程度のシミュレーションなら大きめのサーバがあれば出来るようになってるんですよ。大飯だけに限るのであれば、それで十分でしょう。高価なスパコンなんて必要ない。


モデルは SPEEDI を使うことは出来ないかもしれませんが、世界に目を転じればフリーのものがあるのでなんとかなると思います。問題は、気象データですかね。これは個人で費用を出すにはやや高い。でも、ちょっと大きな団体ならなんとかなるのではないでしょうか。


あ、あと、モデルを動かせる人を雇う人件費は高いかもしれません。まあ、高いって言ってもたかがしれていますが。あ、人材を捜すのも伝手がないと大変か。


そう考えると、NPO には難しいかな。でも、地方自治体なら何とかなるのではないでしょうか。大阪府とかだったら十分に可能なはず。気象系の研究室のある大学と協力するのもいいでしょう。


行政や電力会社が情報を独占しており、代案を示しにくいのが、これまでの脱原発側のつらいところでした。 *2 自前のシミュレーションが、そんな状況に風穴を開けるのではないでしょうか。


実は行政の側も待ち望んでいるのかもしれませんよ、そんなライバルの出現を。まろりいさんが書かれていました。

再稼働反対デモに送るエール -- 霞が関公務員の日常
http://ameblo.jp/georgemallory/entry-11295179658.html

 原子力に限らずあらゆる政策で、大胆だけど実現可能な対案を作れる集団(アメリカのシンクタンク的な)が生まれ、官僚組織と切磋琢磨するようになることを、一官僚としても望んでいるところ。

放射性物質拡散のシミュレーションによって、事故対策については、より真剣な討議ができるようになると思います。


まとめます。


国や電力会社は SPEEDI を用いた予測の公表を日々行うべきです。そして、マスコミもそう訴えるべき。3.11 における SPEEDI の運用についていまさら叩いているマスコミを見るとあほかとおもいます。*3


でも、国も電力会社もマスコミも、「福島の教訓を生かす」意志はなさそう。


それなら、NPO地方自治体がやればいい。今のコンピュータなら、そこそこ現実的な予測が出来ます。SPEEDI ほどの完成度を目指さなければ、毎年数百万円を投じれば可能でしょう。*4


個人ベースでは難しいけど、団体の力ならなんとかなる。国や電力会社に頼らなくても。


着実に出来ることをやっていくことが、発言力のアップにつながるのではないでしょうか。


脱原発運動も、デモで示威するだけではなく、 *5 より学術的、定量的で説得力のある原発批判を行ってもいいはず。そして、放射性物質拡散のシミュレーションは、現実的な費用で出来る中ではもっとも効果的でしっかりとした原発への批判の一つになると思います。脱原発運動の実力者の方、検討してみてください。<追記>
ありゃりゃ、滋賀県はすでに SPEEDI を使っていたんですね。

原子力は民間企業では縮小できない -- 日経ビジネス online
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120712/234391/?P=5
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120712/234391/?P=6


上の私の提案、ちょっと間抜けでしたか…。とほほ。


なお、大飯原発関連での経緯は、グリーンピースのブログが詳しい。


大飯原発福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図 -- 国際環境NGOグリーンピース
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/dblog/speedi/blog/41016/


ほんまかいな、と思わせる、福井県の公開した SPEEDI の結果の図が公表されています。リンクされている他記事もぜひ。


SPEEDI に頼らず自前でやる価値はあるとは思います。


さて、日経ビジネス online の記事には、大飯原発にまつわる関電の対応が書かれており、暗然としました…

植田:安全面では、うーん、驚愕することばかりでした。


 関西電力と話し合ったとき、向こうは何メートルの津波に対して、どうするとか、技術論ばっかり喋るんです。それで、では事故が起こったときの体制はどうですか、と当然、こっちは聞きますよね。そしたら、驚いたことに「事故が起こらないようにします」という答えやねん。びっくりしたわ(笑)。


 「答えになってない。それだけは、やめてくれ」と皆言いました。福島原発事故の最大の教訓は、「原発事故は起こる」ということや。だから起こったときの体制を整える。それは組織文化に根ざしています。でも変わっていないのよ。組織文化は変わらないまま、技術的にはいろいろやっています、みたいな話をされるわけやね。

植田:再稼働は政府が認めるとなっているわけだから、避難の方法とか考えてるはずやね。事故が起こったらこうなると予め把握できて、放射能の少ない避難路を検討できる。SPEEDIは、政府がやっているのだから、出せそうなものだけど、出さへん。福井県知事も言わない。


山岡:なぜですか。シミュレーションをして、放射性物質の飛散の流れが見えて自治体が特定されたら、風評被害が起きて、土地の値段が下がる、から?


植田:わかりません。仕方ないから滋賀県だけが知事(嘉田由紀子氏)の英断で、シミュレーションしたわけです。そしたら滋賀県内だけが、被害予想で色づけされた図が出てきた。大阪府市の我々も、知りたいからと滋賀県にお願いしてこっちのシミュレーションも出してもらった。そしたら、やっぱり大阪府市の範囲しかわからない。大飯の原発事故のシミュレーションで、地元の福井はもちろん他の府県は真っ白で、滋賀県大阪府市の放射性物質の流れだけがポッカリ公開された。なんのこっちゃです(笑)。


山岡:滋賀県知事はシミュレーション結果の公表で関西の経済界から凄い圧力をかけられた、と聞いてます。結局、政府が原発再稼働に踏み切った最大の理由は、電力需給の逼迫というよりは電力会社の経営問題ですね。


植田:そう。そこは、もはやはっきりさせたほうがいい。


福島からいったい何を学んだのか。

*1:上から目線と言われそうな言葉遣いですね、すみません

*2:つらいなんてこれっぽっちも思っていない脱原発関係者が多いように思えます。ネットを見る限り、そのように思えます。私の巡回範囲が限られているせいだとは思いますが。また、放射性物質拡散シミュレーション以外では、本当にすばらしい代案を提示されている方も、いらっしゃるのだと思いますが。

*3:もちろん、きちんとした検証報道は大歓迎です。でも、SPEEDI 報道をみているとそうでもないんだよな。すでにわかっている事実をさも新事実科のように紹介してみたり。この一年、何やっていたのか、と思う。

*4:人件費は除く…

*5:いえ、デモも大変重要です。意思表示は続けた方がよいと思います。