国会で SPEEDI が取り上げられたそうです。

SPEEDI:班目氏「避難に使えぬ」…国会事故調 -- 毎日jp
http://mainichi.jp/select/today/news/20120216k0000m010116000c.html


本文中、こと SPEEDI については、班目さんはもっともなことをおっしゃっているだけですが、まあいろいろな感想を持つ方々がいて、私もちょっと書きたくなりました。もう何度も似たようなことを書いていますが、またもや。


そもそも放射性物質の拡散のシミュレーションを "信じて" 避難の参考にしようなんていうのは愚の骨頂です。原発事故直後の避難指示については「結果的に成功」だったと私はかんがえます。円形の避難区域設定でうまくいったのではないでしょうか。


原発が吹っ飛んでから数日の間の、一般の方々の被曝量を、たとえば 20 mSv 以下に抑えることが出来ました。 *1 福島事故以前の目標はその程度だったはずで、今回の避難指示はその目標を達成した。だから、結果的に成功。 *2


避難に SPEEDI を用いないのは失敗だった!という批判は、ちょっと承服しがたいですね。安全委員会が SPEEDI を使わなかったのも問題だとは思わないし *3、避難に「使えない」代物を作った SPEEDI の開発者も問題だとは思わない。


SPEEDI の最大の問題点は、お金がかかりすぎていること。これにつきると思います。SPEEDI は避難に使う名目で多大な予算が付いていたのだろうな、と思うと、ある種、詐欺的なにおいを感じますね。


このあたり、だれかに検証してほしい。


実際には「詐欺」はなかったと思っています。たぶん、開発の予算要求の際に、「避難に使える!」という文言が入っていた。予算を取るために夢を語ったわけで、だまそうとしたわけではない。でも、その「避難」がなんとなく安全指針の中にも入ってしまった。SPEEDI に予算を付ける側もこのあたりを詳しく精査せず、「アメリカでも似たようなことをやっているし…」みたいないい加減さで有り余る原子力マネーから適当に予算を付けた。


そして、原発が吹き飛んで今回の混乱につながった…


そんな、「平和ボケ」な顛末だったと想像します。


今回の避難指示を失敗だと評するのは簡単ですが、それではどうすべきだったかを考えるのは、「平和ボケ」だった (私を含めた) 多数の日本人にとっては意外に難しいと思いますよ。

*1:最高に被曝された人 (原発の作業員を除く) はどのくらいだったのですかね?20 mSv より大幅に小さいと想像します。

*2:まあ、人々の恐怖を考えると成功と認めるのは政治的には難しいでしょうが。

*3:とはいえ、参考にはしたと思うんですよ。それは正しい使い方

ご無沙汰しております。

いや〜、実名での活動が忙しくなってしまいました。つまり、仕事が忙しい。で、onkimo のほうはほったらかしです。


毒にも薬にもならないこのブログ、書かないでも誰にも迷惑がかからないので気楽ですが、それでもあんまりほおっておくのもなぁ。


ということで、久しぶりに近藤邦明さんのページ、「環境問題を考える」を見に行ったら、なんと、槌田敦さんのあたらしい陳述書が出ているではあーりませんか。


上申書 -- 「環境問題を考える」
http://www.env01.net/global_warming/saiban2/20120201.pdf


気象学会を訴えた裁判は槌田さんが「よっしゃ、これぐらいにしといたるわ」とおっしゃって終わってしまいましたが、*1 東大を訴えた裁判はまだ続いていたんですね。本業の原発でお忙しいところ、温暖化の方にも気を配って頂いていたようで。


で、読んでみましたが、相変わらず、この人は法廷で科学論争をしたいようですね、と思わせる文章でした。


いえ、名誉毀損を訴えてはいるのですが、その前提が「俺が正しいのにあいつら俺が間違えてるといってやがる」なのですよ。


たとえ槌田さんがのおっしゃることが正しかったとしても、それで損害賠償を求めるのは難しいのじゃないかなぁ。だって、間違えたら「はい、損害賠償」では、学者なんて職業は成り立たなくなってしまいますよ。


あとは「言葉遣いが悪いから侮辱だ」ぐらいだけど、口の悪さでは槌田さんも相当、ねぇ。


東京大学を相手取った裁判も、気象学会裁判と同じ途をたどっているようです。


とはいえ、裁判も勝負事。何が起こるかわかりません。


槌田さんが「よっしゃ、これぐらいにしといたるわ」とおっしゃるまで、ぬるーくウォッチを続けたいと思います。

*1:気象学会の見方はこちら
http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2011/2011_11_0058.pdf

おっしゃることに納得できないことが

多い早川由起夫さんの発言のなかにも、たまには気になったり、理解できるものがあるんですよね。早川さんのページを見ていたら、とある記事に出会って、考えました。


もうニュースからだいぶ時が経って旧聞に属するものになってしまいましたが、先月、東大、名大のプレスリリースをもとに、放射性物質の拡散についての報道が流れました。

プレスリリースはこちらです。

http://mausam.hyarc.nagoya-u.ac.jp/~yasunari/pressrelease.pdf


ちなみに、論文はこちら。
http://www.pnas.org/content/early/2011/11/11/1112058108.full.pdf+html


この報道として今も残っているのはこのあたりかな。

USRAなど、原発から放出されたセシウム137の全国沈着量/土壌中濃度を解析 -- マイナビ
http://news.mynavi.jp/news/2011/11/17/095/


気象学の専門家の論評が読みたい方は、masudako さんの記事がよいでしょう。
http://blog.livedoor.jp/climatescientists/archives/1586691.html


マイナビの中身を読んでもらえばわかりますが、安成哲平さんをはじめとする著者のみなさんは、1) 放射性物質の拡散をシミュレーションした 2) 東日本だけでもなく、北日本にも汚染が広がっている 3) 西日本は中部地方の山岳地帯のために汚染が比較的少ないが、それでも相対的に汚染の高い場所がある、4) 日本全体において汚染の観測を継続するべきだ、という内容の論文を書き、PNAS という権威のある雑誌に発表されました。


このプレス発表に対して、早川さんがかみついておられます。

PNAS安成ほか論文の社会的問題点 -- 早川由紀夫の火山ブログ
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-444.html


"事実を捨て置いて、自分たちの妄想を垂れ流したわけだ。これは許されることではない。" と早川さんは断罪します。*1 そして、問題点を次のようにまとめます。

▼問題点の整理

・社会的に緊急性のある知見を獲得したといいながら、それを何か月も秘匿した。

・事実でないことを、事実であるかと誤解されやすい形式で発表した。

・自説に不都合な事実を知りながら、無視した。

この早川さんのページからひかれている togetter 記事においても、まとめられたツイートはそこそこ落ち着いてますが、コメント欄には言いたい放題言っている人たちが。


例によって早川さんは、そしてその取り巻きさんたちは、言いたい放題さんたちなので、文面には共感できないわけですが、私としても、この名大、東大のプレス発表ってまずいよなぁって思っていたんですよね。間違ったメッセージが伝わりかねず、実際に悲しい思いをした方もいらっしゃるようです。


とはいえ、これが公開されるプロセスに登場する人物は、誰も間違ったことをしているわけではないのですが…。顛末を書いてみるとこんな感じでしょうか。


著者の一人である東大の原子物理学者、早野龍五さんは早くから気象学の人と組んで放射性物質の拡散を調べてみたいとツイートされていました。日本の気象学者は反応が悪く、海外からは話があるんだよねぇ、とおっしゃっていた記憶があります。海外というのは安成哲平さんだったのでしょうかね。


お二人をはじめ、多くの人が関わって論文を書いた。哲平さんの父で気象学者の安成哲三さんも加わっておられます。これが、権威あるアメリカの雑誌、PNAS に掲載されることになった。これは公表に値する、ということで、関わった東大と名大が記者発表をしました。それが、テレビ、新聞で全国に配信された。


それぞれのプロセスにはなんの問題もないんですよね。早野さんが拡散を調べたいというのは当然のこと。それに安成さん親子が協力というのは、分野を超えたよい関係です。書いた論文の中には論理の欠陥はなく、テーマも時流に乗っていたため PNAS 編集部が採用を決めるのも不思議なことではありません。PNAS に論文が出たらプレス発表しましょう、というのもまあ自然の流れ。論文から導き出された結論は「全国で放射性物質による汚染の測定をすべき」で、東大と名大がそう言ったのならマスコミが報道するには十分でしょう。


とはいえ、ね。そこで起こったことは、論文に掲載されていたモデルの結果が世間に公表され、実際にはたいした汚染がないところまで、汚染があったのではないかという誤解、ある種の"風評被害"が生じた。


ウェブでは針小棒大に被害を誇張して伝える人がいるため、本当の被害の状況はわかりません。もしかしたらたいしたことは無かったのかもしれない。でも、0 ではなかったみたいです。被害はあった。


著者らのメッセージはあくまで「全国で測定しよう」であって、それについては (あたりまえかもしれないけど) 間違っていないと思います。だから、問題はシミュレーション結果の解釈。


それについては、発表した研究者側はかなり懸念を抱いていました。マイナビの記事には次のコメントが掲載されています。

今回の研究結果は、現在まだセシウム137の土壌観測が行なわれていない地域における今後の詳細観測計画の検討や、すでに詳細観測が得られている地域のデータ(航空機観測や土壌観測など)と比較するための基礎資料としてのみ使用可能で、それ以上の議論を目的とはしていない、とのこと。


そのため、研究者らは「この結果のみを信じて風評被害を生むような間違った使い方は決してされないように」と強く注意を促している。

ああそれなのにそれなのに。


個人的には、シミュレーションの結果を省いて発表すべきだったとおもうのだけど、そうすると今度は「シミュレーションの結果を隠蔽した」という非難が起こりそうだよね。現に、8 ヶ月も隠していた!みたいなことを言っている人もいるし。


少なくない数の人が、シミュレーションの結果、というより、二次元のコンターマップを素直に信じてしまう。SPEEDI のときも、早川さんのマップもそうでした。今回のように「信じるな」というメッセージが横に書いてあっても、信じてしまう人がいる。


どうすれば良かったのか。私にはわかりません。*2


もう少し思うことがあるのですが、また今度。

*1:この断罪を見て、なんだかなぁ、と次のような togetter を読んでしまった私は思うわけです。
http://togetter.com/li/226224

*2:発表しないよりは発表した方がいいと思います。汚染について日本中を測った方がいいとはおもいますし、今回の研究はそのための根拠の一つになるでしょう。何事も根拠に厚みがある方がいいのです。いろんな人がいろんな方法で声を発していた方が良い。問題があるとすれば発表の仕方なのだとは思います。

早川由起夫さんが大学から訓告を受けました。

早川さんは温暖化関係でも懐疑的なツイートをなさったりしていたので、以前からチェックしていました。


なんか、丸山茂徳さんに似ているんですよねぇ。他人の言葉に耳を傾けず、自分の進む道を爆走しているところが。ええ、好きですよ、そういう人。*1


早川さんと言えば放射性物質汚染マップです。毀誉褒貶いろいろありますが、学者としての使命感からあれを発表したのは、いろんな意味ですごいと思います。なんと言っても測定結果だけではなく、自分の脳内データまで駆使して作り上げた結果。


そういえば、丸山さんも、自分の脳内データを元に将来の黒点の増減をグラフに描いて温暖化懐疑論を展開していたことがありました。*2


似てるな、と思います。


さて、そんな早川さんが、大学から口を慎むようにと言う趣旨の訓告をうけ、ちょっとした祭りになっています。大学に対抗して早川さんが記者会見を開き、それをマスコミが報じ、ツイッターでは多くの議論が。


温暖化とは関係ないですが、ちょっと思ったことを。


問題の焦点は、群馬大学が早川さんを抑圧しているかどうかですよね。個人的には、大学人の発言は守られるべきだと思います。その点で、私はこの渡辺芳之さんの発言に同意です。

早川由紀夫群馬大教授に対する「訓告」に関しての渡邊先生のツイート -- togetter
http://togetter.com/li/224532


ですが、農家をオウム呼ばわりはさすがに。国の基準を満たしている米を「毒」と称するのも。


言論の自由があるからといって、大学人だからといって、たとえば人種差別的発言は許されないし、「死ね」みたいな言葉も場合によっては許されない。


早川さんの発言は、許されるものだったのか?


私にはわかりません。グレーですね。


ただ、ムダに黒っぽいとは思います。毒とかオウムとか言わなくてもいいじゃん。


当人は気づいていないと思いますが、早川さんは大学に守られているわけです。大学に貢献している対価で当然とおっしゃるとかもしれませんが、とにかく守られている。


その大学が、農業団体や自治体から責められている。大学としても、「オウム」「毒」という発言を守る論理を紡ぎ出すのは難しい。


だから、名前を指定しない通達や、当人への口頭での注意などでやんわりと軌道修正を促した。


それでも聞かなかった早川さんに、今回、大学は訓告という処分を取った。


学問の自由を守る最高学府としての群馬大は、口を慎め、と軽々しくいうことは出来ません。それなりの重大な事情がある。


群馬大が早川さんを抑圧していると言うより、早川さんがが群馬大の忍耐力を試している、というのが今回の本当の構図です。


ぶっちゃけ、早川さんは大学に甘えている。


訓告処分がマスコミで報じられて騒ぎになった今も、まだオウムなんて言葉を使って福島の農家をたたいています。

http://twitter.com/#!/HayakawaYukio/status/144734934957957120

ちなみに、サリンつくったオウム信者はひとりも罰せられていません。マインドコントロールされてつくったと解されて、罪を不問にされています。さて福島農家はどうでしょうか。知っていてつくったのではありませんか。自分の孫に食べさせられないものを出荷したのではありませんか。

私には、大学を窮地に陥れようとしているとしか思えません。


早川さんは、まだまだ大学に甘えるつもりのようです。


別に甘えるな、とは言いません。その人の生き方の問題ですから。


ただし、大学がかばいきれなくなったとき。


早川さんはいかに自分が恵まれた地位にいたかを知ることでしょう。<追記> これまで見てきた限りでは、群馬大学は処分について公表していない模様です。


この群馬大の態度をどう評価するか。かげでこそこそ早川さんの足を引っ張っているという評価も出来るでしょう。でも、私は穏便に済ませたいだけなのだと思います。群馬大の消極性であると同時に、不名誉な事実が世間に出ないよう、早川さんを守ってもいるのです。


それを記者会見で公表するというのは、つまり、早川さんが一方的に騒ぎを拡大させているわけで。これは、ある種、抵抗勢力を作り議論を盛り上げる小泉純一郎的手法ですね。私は嫌いじゃないですし、実際、受けも良い。


いずれにせよ、早川さんが大学を追い込んでいるのは確かです。<さらに追記> 群馬大は取材に対して訓告の処分を明らかにしているようです。たとえば NHK のこちら。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111209/k10014522041000.html


公表し始めたのが、早川さんの記者会見の先か後かはわかりません。なにかわかったらあとでまた追記します。

*1:早川さんから実害を被っている方には申し訳ありません。当方、当事者意識があまりないので、こんな感情を抱いてしまうのです。

*2:この、いわば 'reference 俺' 事件を含む論争の顛末については、気持ち^1 のシリーズ記事に書きました。長いです。
http://onkimo.blog95.fc2.com/?tag=%B5%AD%BB%F6%3A%B4%DD%BB%B3%CC%D0%C6%C1%A4%B5%A4%F3%A4%AC%A4%F3%A4%D0%A4%C3%A4%C6

エア御用についてもうちょっと。

いえ、私はエア御用なんて呼ばれたことなど無いのですが、SPEEDI への態度からそう呼ばれてもおかしくないなと思っています。ああ、有名じゃなくて良かった!


さて、「エア御用」でググると、togetter のまとめページが引っかかりました。


エア御用 -- togetter
http://togetter.com/t/%E3%82%A8%E3%82%A2%E5%BE%A1%E7%94%A8


togetter では、bouzu_3 さんという方が精力的にまとめを作っておられたようですね。「御用学者」と呼ばれた人について、こんな風におっしゃっています。

それにしてもなんでそんなに嫌がるのか?


どうも、エア御用と呼ばれるのがなぜいやなのか、わからないみたいです www


そもそも、「御用」という言葉が批判的に使われる場合、その人物が政府の考えにおもねって自分の考えを曲げて発言するような信用ならない人間だとこき下ろしているわけです。


情報を発信することをなりわいとする人たち、たとえば学者やジャーナリストのような人種への批判としては最大級。存在理由を否定しているわけですから。


いや、批判と言うより、侮辱ですね。最大級の。


で、「エア御用」ですが、どうなんでしょうね。「エア」ってふわっとした形容詞で侮辱度が下がるかどうか。


私、個人的には「ばか」ってよばれるより「うすらばか」ってよばれるほうがよりむかつくんですが、それを敷衍して考えると、「御用」よりも「エア御用」の方が強烈な侮辱かも。


反発する「エア御用」と呼ばれた人たちに向かって、"なんでそんなに嫌がるのかわか" と言い放つ人たちを見ると、女の子に向かって「ブス、死ね」と言い続けて、その女の子にキレられたときに、「なんでそんなに嫌なの?」と逆ギレしてしまう小学生男子が思い浮かびます。


まあ、ガキですよね。あ、エアガキとでも言っておきましょうか。


あ、あまり言いたいことではない記事を書いてしまった。本題はまたあとで。

河野太郎さんのブログに

「京」に関するこんな記事が載っていました。


スパコン京への疑問
http://www.taro.org/2011/11/post-1118.php


まあ、思うことはいろいろあるのですが、「京」について書いてくれるというのは関心があることのあらわれ、頑張ってほしいと思います。


問いについて、思ったことを書きますが、とはいえ、河野さんに対して答える立場にも義理もないのでトラバも何も送りません。京の関係者でもないしなんのチェックもしていないので、たぶん不正確なところがいっぱい。あとで修正するかもです。感情に任せて書きました。


> スパコン京の利用については、選定機関が認めたものに限るようだが、既に科研費の審査を通ったものについて、再度、スパコンを利用するための申請書を書き、それを審査するのは無駄ではないか。負担金額に応じたリソースが使えるようなルールにすべきではないか。(科学振興予算の純粋科学と技術開発の割り振りを適正化する必要がある)


意味がよくわからない。科研費の審査員に必要とされる能力と、京の課題選定の審査員に必要とされる能力は違う、と答えたいが、本当にそんなことを聞いているのか?


> 成果目標の明確化を求めると、純粋な研究の可能性を狭めないか。


これはその通り。京、というより日本の科学技術に全般的に言える問題。逆に、成果目標の明確化を求めないと、京自体の成果も明確化しにくくなるが、それは OK なの?


> 来年6月の引き渡しから半年近く経った11月からしか供用されないのはなぜか。


理由は二つ。まず、多くの装置系の巨大プロジェクト (人工衛星とか) で、最初の一定の期間はプロジェクトに主に関わった研究機関に占有する権利が与えられることが多い。開発に割く資金、労力を考えると、この程度のインセンティブは必要だと私は思うし、京にもそれが当てはまるだろう。


もう一つ、巨大スパコンは設置当初安定して動かない。時間が経つに従ってこなれてくる。最初の不安定な期間に部外者に開放するのは、お互いデメリットが多い。こんなこと書くと、不安定なまま引き渡したベンダーを責める声が多いと思うが、私はそれには与しない。プロ使用の品はコンシューマ向けの製品とは違う。そもそも、開発したのは建前としては理研のはず。スパコンは PC とは違う。


> 京を中核とするネットワークで接続されたHPCIとこれまでのネットワークに接続されているスパコンの環境はどこがちがうのか。


質問の意味がよくわからない。なんだ、「ネットワークに接続されている」って。無理に答えるが、私の印象では、違いは規模、つまり、コア数。たとえば地球シミュレータで使われたような接続方法は京では使えない。だから、Tofu を開発する必要があった。コア数という量的な違いなのだが、実質上、質的な違いとなって開発陣に立ちはだかる。


> 「次世代スパコンと全国の主要スパコンをネットワークで結ぶことにより、研究の内容、性質に応じて最適なスパコンを選んで計算することが可能になる」というが、計算機を使い分けることが実際にあるのか。


しらん。が、有ってもおかしくない。


> ソフトウェアのデバッグを考えると、京一台というのは効率が悪くないか。


効率悪い。是非、もう一台。


もちろん、京の半分 × 2 では?ということをおっしゃりたいのだろうが、劇的に安くなるならともかく、メリットはない。京でも、京の半分×2として運用することは可能で、一方、京の半分×2では京でしか出来ない計算を実行できないから。


> 東大の次世代スパコンは、富士通の1ペタ以上のものになるが、これまでの日立のスパコンからのソフトウェアの移行という作業が加わることをどう考えるか。


そうなんだよねぇ。東大の計算機の計画はよく知らんが、日立から富士通に移行時にコードの書き換えが必要になるでしょうから、それは厄介。で、どうします?日立にお金出してスパコン新たに開発してもらいますか?


> また、京大の次世代はCLAYになるが、同じような問題が発生するのだろうか。


こちらはどうなんでしょうね。今の CLAY のアーキテクチャを知らんからなんともいえない。


> 民間で京クラスのスパコンを必要とするところがあるか。ソフトウェアをかける研究者がいるのか。これまでのスパコンの民間の利用はどうだったのか。


費用との関係。京を自前で作る!ってところはないんじゃない?一方、安けりゃ使いたいという人はいっぱいいると思う。


> 本当に「スパコンを利用した研究が飛躍的に進展し、推定利用者が1000人から2万人になる」か。


なるかどうか、というより、そうするべきです。ただ、京があったから利用者が 2 万人に増えるとは限らん。それでも京があった方が増えやすいと思う。


> 開発加速の経費110億円が削減されたのにほぼ当初のスケジュールできているのはなぜか。企業努力なのか。


企業努力でしょうね。もちろん、110 億はふっかけだ、との主張を私が否定する理由も義理もありません。


> NECや日立に支払われた開発経費はどうするのか。


ぜひ、このへんはクリアにしてほしいものです。


> メンテナンス経費は適正か。


この辺もクリアに。ただ、ベンダーがうはうはってなことはないと思うよ。京の開発過程で途中で投げ出したベンダーを思い出すべき。


> ストレージの単価の低減が急激に起こることを考えると、ストレージの導入計画は適正か。


わからん。あまりこだわると、ストレージが足りなくてせっかくの計算機が遊んでしまう可能性はある。一般的に、スピード頑張っちゃうから、メモリとかストレージけちる傾向がある気がします。逆に少なすぎないか心配。


> スパコンの利用率は導入年度には低く、後年度に高くなることを考えると、性能はレベルアップ方式で調達すべきではないのか。


そうかも。ただ、利用者も使いながらスキルアップしていくので、この方式を採用するといつまで経っても利用率のパーセンテージは上がらない (利用されるコア×時間では増えるけど) ということにもなりかねん。


> 10ペタという開発目標は適正だったのか。


わからん。歴史が決める。


> 10ペタフロップスの性能に対して、1ペタバイトのメモリーは適正か。


私は少なめだと思う。先にも行ったようにメモリけちる傾向はあるとおもう。とはいえ、工夫で何とかなる部分でもあるから、ひどく少ないとは思わない。


> 文科省は、かつてLinpackで一位になった中国のスパコン「天河」に関して、「多くのアプリケーションで必要とされる主記憶との間のデータ転送性能が十分とは言えず、応用範囲は限定的。性能を引き出すためには専用の言語でのプログラミングが必要となるため、ソフトウェア試算の継承や流通が難しい」と指摘したが、なぜ、京では10ペタフロップスだけが強調されるのか。


京は天河にくらべてバランスが良い (はず)。Linpack 以外の、データ転送性能に影響されやすい多くのアプリケーションでより理論値に近い性能が出る (はず。詳しくは知らん)。


> スカラー型とベクター型の混合型が適正とした当初の計画から、スカラー型のみの計画に転換したのはなぜか。


これはクリアにして頂きたい、ってか、ほんとは知ってるんじゃないの?こんなことに関わる政治家たるもの、それを知るチャンネルを持っておくべき。


> 文科省は、自民党事業仕分け民主党政権事業仕分けで指摘されたことに対して、きっちりと答えていないではないか。


これはそうかも。きっちり答えるべき。


> 一部の学者のためのスパコンになっていないか。


超並列スパコンを (超並列スパコンとして) 使える技能を持つのは一部の学者だから、その通り。是非スパコン技術の普及を。


> なぜ、スパコン京の利用を一部の機関、一部のプログラムに優先的に割り当てる必要があるのか。


しらん。ってか、これは国家戦略だから、是非、政治家の方にも参加して頂きたい。もちろん、ちゃんとスパコンと科学技術に対する知識、知見と展望を持って長い間コミットしてくれることが条件。


> 今後のスパコン開発は何を目標とするのか。なんのためのスパコン開発をするのか。


スパコンがほしい人たち、各人各様の思惑がある。その最大公約数が「スパコンは必要」。はっきりしないよね。


> スパコン問題は根が深い。が、問題は、文科省がこの予算、このプログラムの目的に関して、明確に答えられないところにある。


なにをもって明確と言っているのか。他の最近の巨大プロジェクト、たとえば、天文の ALMA とかは明確なのか。


> スパコン問題は、科学技術振興予算のいわば入り口で、来年は4兆円を超えるかもしれない科学技術振興予算の全面的な見直しが必要だ。


それはそうかも。お金はそこそこ増えてきたのに、研究者たちは未来をあまり明るいものととらえることが出来ていない。そのせいもあって、科学技術の足腰は弱りつつある。減らすにしても、足腰を強くする方策を考えてほしいし、それこそ政治の力。河野氏が本気で取り組んでくれることを望む。<追記>
牧野さんが書かれていて、やっぱ本物は全然違いますね。

109. 「スパコン京への疑問」について(2011/11/16)
http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/future_sc/note110.html


とはいえ、消さずに恥はさらしておきましょう。

久しぶりにトラックバックを頂きました。

ありがたいことです。こちらの記事です。

失望と期待 -- Chromeplated Rat
http://schutsengel.blog.so-net.ne.jp/2011-11-10


pooh さんのおっしゃることはよくわかります。というより、感情面では私と同じだなあ。とほほに思っているところとか。


そのうえで、少し思っていることを。いえ、pooh さんに言いたいこと、というわけではないのですが…。


これまでに見たところ、STS のつけた果実には、腐っている部分もあるようです。ですが、おいしいところがあるかもしれません。そこをみんなが積極的に利用していければよいなと思っています。


もちろん、私自身いまだそのおいしいところを利用していないので、こんなことを言うのはおこがましいですが。STS のおいしいとことをわかりやすく紹介してくれる人がいるといいな。あれれ?紹介方法も、研究の対象になったりして。「『科学技術社会論』社会論」なんちて。


ははは、メタな冗談になってしまいましたね。でも、冗談だと笑って済ませて良い話とは思っていなくて…。


今回の原発騒ぎで「科学技術は信用を失った」として、科学者、技術者のことを信頼しない人が増えたと思います。科学の一端を担うものとして、これは悲しいことですが、まあ仕方がないでしょう。そして、一部の STS の人は、その尻馬に乗って騒いでいるみたいです。


多くの人たちにとって、科学の一部である原子力工学は「腐って」いたわけです。また、放射線医学も「腐って」いたと思っているひとがいるかもしれません。気象学でさえ腐った方に分類している人もいそうです。(私としては、いずれも腐っていたとは思いませんが)。でも、科学には「おいしい」ところがたくさんある。原発一点を見て科学を捨てるような人、そして社会は、なにがしかの「損害」を被るでしょう。


この、科学と社会の関係、それが、STS と社会の関係との間にも言えるかも。STS の外側の人間として、そんな意識を持って STS を見ていきたいと思っています。<追記>
STS の腐っているところを「腐っている」と指摘することは大切だと思います。科学の腐っているところを指摘するのと同じくらい大切だと。指摘している人たちにはありがたいと思っています。