おっしゃることに納得できないことが

多い早川由起夫さんの発言のなかにも、たまには気になったり、理解できるものがあるんですよね。早川さんのページを見ていたら、とある記事に出会って、考えました。


もうニュースからだいぶ時が経って旧聞に属するものになってしまいましたが、先月、東大、名大のプレスリリースをもとに、放射性物質の拡散についての報道が流れました。

プレスリリースはこちらです。

http://mausam.hyarc.nagoya-u.ac.jp/~yasunari/pressrelease.pdf


ちなみに、論文はこちら。
http://www.pnas.org/content/early/2011/11/11/1112058108.full.pdf+html


この報道として今も残っているのはこのあたりかな。

USRAなど、原発から放出されたセシウム137の全国沈着量/土壌中濃度を解析 -- マイナビ
http://news.mynavi.jp/news/2011/11/17/095/


気象学の専門家の論評が読みたい方は、masudako さんの記事がよいでしょう。
http://blog.livedoor.jp/climatescientists/archives/1586691.html


マイナビの中身を読んでもらえばわかりますが、安成哲平さんをはじめとする著者のみなさんは、1) 放射性物質の拡散をシミュレーションした 2) 東日本だけでもなく、北日本にも汚染が広がっている 3) 西日本は中部地方の山岳地帯のために汚染が比較的少ないが、それでも相対的に汚染の高い場所がある、4) 日本全体において汚染の観測を継続するべきだ、という内容の論文を書き、PNAS という権威のある雑誌に発表されました。


このプレス発表に対して、早川さんがかみついておられます。

PNAS安成ほか論文の社会的問題点 -- 早川由紀夫の火山ブログ
http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-444.html


"事実を捨て置いて、自分たちの妄想を垂れ流したわけだ。これは許されることではない。" と早川さんは断罪します。*1 そして、問題点を次のようにまとめます。

▼問題点の整理

・社会的に緊急性のある知見を獲得したといいながら、それを何か月も秘匿した。

・事実でないことを、事実であるかと誤解されやすい形式で発表した。

・自説に不都合な事実を知りながら、無視した。

この早川さんのページからひかれている togetter 記事においても、まとめられたツイートはそこそこ落ち着いてますが、コメント欄には言いたい放題言っている人たちが。


例によって早川さんは、そしてその取り巻きさんたちは、言いたい放題さんたちなので、文面には共感できないわけですが、私としても、この名大、東大のプレス発表ってまずいよなぁって思っていたんですよね。間違ったメッセージが伝わりかねず、実際に悲しい思いをした方もいらっしゃるようです。


とはいえ、これが公開されるプロセスに登場する人物は、誰も間違ったことをしているわけではないのですが…。顛末を書いてみるとこんな感じでしょうか。


著者の一人である東大の原子物理学者、早野龍五さんは早くから気象学の人と組んで放射性物質の拡散を調べてみたいとツイートされていました。日本の気象学者は反応が悪く、海外からは話があるんだよねぇ、とおっしゃっていた記憶があります。海外というのは安成哲平さんだったのでしょうかね。


お二人をはじめ、多くの人が関わって論文を書いた。哲平さんの父で気象学者の安成哲三さんも加わっておられます。これが、権威あるアメリカの雑誌、PNAS に掲載されることになった。これは公表に値する、ということで、関わった東大と名大が記者発表をしました。それが、テレビ、新聞で全国に配信された。


それぞれのプロセスにはなんの問題もないんですよね。早野さんが拡散を調べたいというのは当然のこと。それに安成さん親子が協力というのは、分野を超えたよい関係です。書いた論文の中には論理の欠陥はなく、テーマも時流に乗っていたため PNAS 編集部が採用を決めるのも不思議なことではありません。PNAS に論文が出たらプレス発表しましょう、というのもまあ自然の流れ。論文から導き出された結論は「全国で放射性物質による汚染の測定をすべき」で、東大と名大がそう言ったのならマスコミが報道するには十分でしょう。


とはいえ、ね。そこで起こったことは、論文に掲載されていたモデルの結果が世間に公表され、実際にはたいした汚染がないところまで、汚染があったのではないかという誤解、ある種の"風評被害"が生じた。


ウェブでは針小棒大に被害を誇張して伝える人がいるため、本当の被害の状況はわかりません。もしかしたらたいしたことは無かったのかもしれない。でも、0 ではなかったみたいです。被害はあった。


著者らのメッセージはあくまで「全国で測定しよう」であって、それについては (あたりまえかもしれないけど) 間違っていないと思います。だから、問題はシミュレーション結果の解釈。


それについては、発表した研究者側はかなり懸念を抱いていました。マイナビの記事には次のコメントが掲載されています。

今回の研究結果は、現在まだセシウム137の土壌観測が行なわれていない地域における今後の詳細観測計画の検討や、すでに詳細観測が得られている地域のデータ(航空機観測や土壌観測など)と比較するための基礎資料としてのみ使用可能で、それ以上の議論を目的とはしていない、とのこと。


そのため、研究者らは「この結果のみを信じて風評被害を生むような間違った使い方は決してされないように」と強く注意を促している。

ああそれなのにそれなのに。


個人的には、シミュレーションの結果を省いて発表すべきだったとおもうのだけど、そうすると今度は「シミュレーションの結果を隠蔽した」という非難が起こりそうだよね。現に、8 ヶ月も隠していた!みたいなことを言っている人もいるし。


少なくない数の人が、シミュレーションの結果、というより、二次元のコンターマップを素直に信じてしまう。SPEEDI のときも、早川さんのマップもそうでした。今回のように「信じるな」というメッセージが横に書いてあっても、信じてしまう人がいる。


どうすれば良かったのか。私にはわかりません。*2


もう少し思うことがあるのですが、また今度。

*1:この断罪を見て、なんだかなぁ、と次のような togetter を読んでしまった私は思うわけです。
http://togetter.com/li/226224

*2:発表しないよりは発表した方がいいと思います。汚染について日本中を測った方がいいとはおもいますし、今回の研究はそのための根拠の一つになるでしょう。何事も根拠に厚みがある方がいいのです。いろんな人がいろんな方法で声を発していた方が良い。問題があるとすれば発表の仕方なのだとは思います。