SPEEDI 考 (6): 誰がやってる?SPEEDI

SPEEDI の歴史について見てきましたが、それでは今はだれが運用しているのでしょうか?運営主体を知ることで、なぜこんなにお金がかかったのか、うまく活用されなかったのかわかるかもしれません。


その運営主体は (財) 原子力安全技術センターです。私、今回の騒ぎが起きるまでこの財団法人の存在を知りませんでした。ホームページはこちら。

(財) 原子力安全技術センター
http://www.nustec.or.jp/index.html


そもそも、このセンターはどんな業務をやっているところなのでしょう。


業務内容紹介 -- (財) 原子力安全技術センター
http://www.nustec.or.jp/japan/japan01.html


放射線障害防止法に基づく登録業務」や「原子力安全確保に関する講習及び普及・啓発」などがあげられています。SPEEDI はというと、「原子力防災に関する業務」というのがあって、その業務の中心に据えられています。


全体的には、講習会や研修の実施、登録業務などがおおきな割合を占めているようです。なんだか、SPEEDI だけ異色だな、と思いました。SPEEDI だけ、「研究」「開発」が必要だからです。


ちょっと詳しく私の思ったことを書きます。


SPEEDI原子力安全技術センターに原研から移管されたのは 1985 年、いまから四半世紀以上前です。この 25 年間、大気モデルというのは大きな変貌を遂げ、同時にコンピュータ環境も大きく変わりました。


1985 年の大気モデルが今そのまま使えるとは思いません。使えたとしても、たとえば気象庁から取り入れるデータは変わるでしょうからそれに対応させなければなりません。コンピュータの進化にあわせてモデルの解像度を細かくすればより精密な計算ができますが、解像度を上げるというのは、プログラムこそ変わりませんが、実は新しいモデルを作るのと一緒と考えた方が良く、出てくる結果を観測と照らし合わせて吟味しながら調整していくという作業が必要になります。


まさに、「研究」「開発」なのです。


他の業務にも「研究」の文字が散見されます。ですが、それは法律や社会環境の変化に対応するための「研究」など、自分でなにか作り出すタイプの営みではなさそう。「調査」という言葉もみられますが、それに近い「研究」ですな。


ですから、SPEEDI だけ異色だなと思ったわけです。


それでは、SPEEDI はこのセンターのような組織が管理すべきなのか?


センターの業務中、SPEEDI だけ異色だと書きましたが、とはいえ、センターが管理していてもそんなに悪くはないのかなと思います。


理由は、研究開発の一方で、SPEEDI を支えるルーチン的な作業も必要だからです。いえ、災害がルーチンな訳ないのですが、災害に備えるためにルーチン的な準備が必要なのです。たとえば観測機器の保守点検、たとえば情報の受け手である地方自治体との連携、たとえばデータの読み方の講習会。


そして、ルーチンワークの実践は研究とは毛色が違う。たとえば原研のような研究を中心とした組織には向いていない作業ではあるでしょう。原子力安全技術センターは、この点において、 SPEEDI の管理に向いていると思います。


とはいえ、実情はどうだったのか。この危機においてあんまり活用されたようには思えません。


あ、公開されなかったことを問題だと思っているわけではないんですよ。以前の記事でも取り上げましたが、届くべきところに情報が届いていないのが問題だと思っているわけです。

SPEEDI 考 (3): 活用された ? SPEEDI
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20110607/1307456763


そもそも、SPEEDI はあまり期待されていなかったきらいがあります。宣伝不足だったのかなと思います。たとえば、こちらの河野太郎衆院議員の記事:

SPEEDI、公開できませんっ!? -- 河野太郎公式サイト
http://www.taro.org/2011/03/post-957.php

このシステムを持っているはずの文部科学省に、「原発の緊急事態のSPEEDIに関する情報の担当部署をお願いします」と電話すると、「原発に関する情報はスピーディにお出しするようにしています」。思わず、頭に上っていた血が降りてきた!

てな感じで文科省のドタバタが伝わってくるのですが、これが地震から 10 日以上後のこと。いくらなんでも文科省のお役人、物知らなさすぎでしょうと思うと同時に、そもそも、SPEEDI はそんなに期待されていなかったのだろうと感じます。


最近では SPEEDI が大変期待されていたような論調も見かけますが、3 月から報道を追ってきた私にはそうは思えない。


どうして期待されていなかったのか。どうして活用されなかったのか。次の記事で邪推したいと思います。