zakzak の記事を見て

驚きました。


放射能は太平洋、房総半島のはるか沖合まで ドイツ気象局13日予測 -- zakzak
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110412/dms1104121238005-n1.htm


ちなみに、4/12 の記事です。そして、こちらは 4/9 の記事。


10、11日の放射性物質拡散濃度予測 ドイツ気象庁 -- zakzak
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110409/dms1104091427012-n1.htm


zakzak は、ドイツ気象局の予測図を取り上げてその日の放射線の強さを定性的に教えてくれています。


そもそもドイツの予測は、基本的にその日放出された放射性物質がどんな風に流れ、どんな風に希釈されるかを表したグラフです。あれをみてその日の放射線の強さがわかるわけではありません。詳しくはこちら.


ドイツ気象庁 (DWD)による粒子分布シミュレーションの日本語訳 -- with eyes closed
http://www.witheyesclosed.net/post/4169481471/dwd0329


この図は放出される放射性粒子の相対的な分布図(訳注:大気中)と題されており、下部の小文字部分には要注意:放出源の濃度が明らかでないため、この予想図には空気中にある放射性粒子の実際の密度が反映されているとは限りません。発電所からの仮想上の放出が天候条件によってどのように分布し希釈化されていくのかのみが表現されています。との注意書きがあります。


赤色の濃淡で粒子の濃度を表しており、上から順に
赤:濃度は僅かに希釈されている
黄:濃度はかなり希釈されている
白:濃度は極めて希釈されている
となります。ですから、福島地方においての空気中の放射性物質の濃度を基準にした場合に、そこから濃度はどのように薄まり分布していくのか、という事を気候条件を基に予測したもので、放射線量の絶対的な測定数値はこのシミュレーションには直接反映されていません。その為に敢えて「相対的」と前置きしている訳です。よってこの図から危険度の評価はできません。


濃度は「わずかに」「かなり」「きわめて」希釈されているって、普通に考えれば「なんだ、そりゃ?」なわけですが、逆に考えればそのくらいゆるーく考えて下さいね、の発表者の気持ちでしょう。「仮想上の放出」「相対的」ってのが重要なところ。


「危険度の評価はできません」というのは、大気の流れと放射性物質の移動の計算が完璧であっても、発生した放射性物質の濃度で色と危険度の関係が変わってしまうということを意味しています。今みたいに、原子炉から大気中に直接出てくる放射性物質がほとんどない *1ような状況では、どの色でもそんなに危険なわけではありません。


もちろん、すでに放出された放射性物質からの放射線は危険な場合があります。ドイツ気象局の絵はそれには対応していません。


ところが、zakzak は勘違いしているっぽい。


ドイツ気象局による13日午後3時の放射性物質の拡散濃度予測によると、放射性物質福島県から三陸海岸沖の太平洋、房総半島のはるか沖合に広がっている。関東や西日本には広がっていない。

(4/12 の記事)


ドイツ気象庁による10、11日の放射性物質拡散濃度予測は図の通り。色が濃い部分がより濃度が高くなる見込み。

(4/9 の記事)


その日の濃度の予報だと思っている気配が濃厚。まあ、その日に飛んできた放射性物質しか含まれていないのならそれでかまわないのですが、先ほど述べたように、これまでに蓄積された物も勘案しないといけないので、上の書き方はいささかミスリーディングでしょう。


もいっちょ、こちらの記事も。たぶん zakzak が最初にこの予測を取り上げた記事。

31日は関東南部まで…ドイツ気象局が放射性物質拡散予想 -- zakzak
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110329/dms1103291705021-n1.htm


「精度もなかなかのよう」だって…。そして、zakzak は頻繁に予想を掲載することになりましたとさ。


とほほ…。


まあ、とはいえ、このような図をいつも見られるのはいいことではあると思うんですよ。毎日見ていたら、日本各地でどんなときにどのくらい放射性物質が飛んでくるのかといった勘がつかめそう。この手の図は、とってもおおざっぱに感じをつかむには意味がありますからね。*2


一方で、これ、気象庁など、日本の政府機関がやったらまずいと思います。風評被害で。気象庁が出したら、たぶん zakzak よりももっと信用度のある媒体に載ってしまうでしょうし、そのせいで信憑性も高まってしまうでしょう。頻繁に濃い色がかかる地域の農産物、海産物、風評被害が半端じゃないことになりそうです。


風評被害さえなければ、もうみんな落ち着いてきたから予報をだしちゃってもいいとおもうんですけどねぇ。知識があった方が、無意味に怖がらずにすむと思うし。日本人は頭いいので、時間をかければ今の天気予報と同様に、きちんと受け止めてくれそうな気がします。


まあ、いずれにせよ政府機関が正式に報じるのはまずいでしょう。


あんまり信憑性をもった情報として流れてほしくない。風評被害につながるのは避けたい。そう考えると、地球の裏側の気象庁が出したデータが zakzak に載っているというのは意外にちょうど良いのかもしれません。

*1:海中には放出されているかもしれませんし、すでに放出された物質が風で巻き上げられたりはしていると思いますが

*2:そのためには図のキャプションを正確に書いて頂く必要がありますが