これは本当にひどいと思いました。
【特別無料公開】若手期待の最先端・次世代研究開発支援プログラム、採択者の年度内決定に暗雲、和田政務官が申請書の追加提出を示唆 -- Biotechnology Japan
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2011011778609
若手研究者や女性研究者を支援する大型プロジェクトの最先端・次世代研究開発支援プログラムで、採択者の決定が大幅に遅れている。
最先端・次世代研究開発支援プログラムとは、若手・女性研究者約300人に、4年間で最大2億円の研究支援を行うという内容の施策。09年度第1次補正予算による500億円を原資としている。
だそうです。
なぜ遅れているのか?
手続きは進んでいたのです。予備的な段階はだいたい終わって、後は最終的な審査が残っているだけでした。
ですが…
しかし、ここから作業が進まなくなった。その原因は、9月に科学技術政策担当の内閣府政務官に就任した和田隆志・衆議院議員にあるとされる。実際、2011年1月13日の記者会見で作業の遅延について聞かれた和田政務官は、「プロジェクト自体を駄目だと言っているのではなく、誰に何をやってもらうかをきちんと決める必要がある。現段階では、その判断をするための材料が足りない」と発言。さらに「足りない材料とは何か」との質問に対して、「一般国民が読んで研究内容が分かるような書類の提出を、5600人すべての応募者に要請しようと考えている」と答えた。
そう、和田さんという方の鶴の一声で、支援プログラムが混乱に陥った訳なのです。
まあ、報道がどれだけ正しいのか、本質を突いているのかはわかりません。しかし、すくなくとも、"一般国民が読んで研究内容が分かるような書類" の下りはあんまりだと思います。
ひどすぎる!!!
これ、"最先端・次世代研究開発支援プログラム" と銘打たれているのですよ!
言っておきますが、私は個人的には科学者が一般市民に語りかけることは必要だと思っています。
でも、審査に一般国民の視点を過度に取り入れるのは大反対です。この発言、一般国民がわからないような研究はするな、と言っているように感じられます。
「一般国民が読んで研究内容が分かる」そもそも、国民すべてがわかるようなテーマが、最先端であり得るのでしょうか?
「あいつ、なんかわけわからないことやっているぞ」と一般国民が思うことをやめさせるのは、出る杭を打つことにはならないでしょうか?
それに、自分がわからない科学の最先端をやっている、そんな人たちに尊敬の念を抱くことはできないのでしょうか?
そんなに遠くない過去、近くの国で起きた、文化人、知識人を迫害した大規模な事件を思い出しました。今回の話はそんな大げさなものではないのですが、メンタリティとしては似通ったものがあると思います *1。
幸い、私の関わっている気候学の世界は比較的一般国民にわかりやすいので問題の程度は軽いと思います*2。ですが、ほかの分野のことを考えると…。
最先端に対する支援の交付に一般国民の理解が必要、こんなことを言う人は、素粒子物理学の最先端と物性物理学の最先端と数学基礎論の最先端と、その他学問の最先端に大変造詣の深い、そして、小柴さんがノーベル賞を取る前からニュートリノ天文学に理解があってハヤブサが大気圏で燃え尽きる前からサンプルリターンの宇宙開発における重要性を把握していた人であってほしいと思います。
同様に、一般国民が、量子重力理論とナビエストークスの解の存在問題とBCS理論ぐらいの基礎的な知識を (もちろん他の学問分野の "基礎的" な知識も)、初中等教育で持ち合わせることができるようにきちんと予算措置をしていただきたいと思います。
いやー、久しぶりに腹が立った。事業仕分けの時以来ですね。
*1:槌田さんの弁護士さんのことをおもいだしました。科学にシビリアンコントロールが必要だとおっしゃっていたかたです。こちらに記事を書きました。
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100627/1277644299
*2:いえ、お金がくるのが遅れるという点で多大な実害はあるのですが