で、nytola さんのコメントについてです。
こちらの記事の続き
浜の真砂は尽きるとも、世に懐疑論の
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20101029/1288343435
id:nytola さんはおっしゃいます。
・最近脚光を浴びている03年の論文、広大の小澤准教授。熱力学第二法則と矛盾する温室効果を無視すると、地球の気候(熱収支)を単純明快に説明できる。IPCCの『温室効果は太陽光の2倍も地球を暖める』との主張を真っ向から否定。
はてさて、小澤さんは本当に温室効果などないと考えておられるのでしょうか?このあたりにヒントがありそうです。
Ozawa et al, 2003 *1より引用。
図 a は、地球を平均的に見た場合の、熱のやりとりの図です。太陽 (丸で表現)、大気 (上の方の四角形)、地表 (下の方の平べったい四角形) の三つの要素を考えます。5800 Kの太陽からやってきた熱が 240 [W/m^2] (以下、熱の流れの単位略)、このうち大気に 98 が吸収され、142 が地表に吸収されます。地表の温度は 288 Kで、吸収した熱のうち 40 を赤外線の形で、102 を顕熱 (暖かい地表から比較的冷たい大気への熱の流れ) と潜熱 (水の蒸発にともなう熱の流れ) によって渡します。この熱は対流などで大気の上部へ運ばれ、大気に吸収された分と合わさって、最終的には太陽からやってきた量と同じ 240 が 255 K の黒体から発せられる赤外線の形で宇宙に出て行きます。
小澤さんはこれで大気-地表システムがどのようにエントロピーを発生させているのかを調べているわけですが、まあ、それはともかく。大気の温室効果が入っていませんね。大気からの赤外線という形で図の中に示されるはずなので。
たぶん、この点が nytola さんのコメントにつながっているのでしょう。ほらー、小澤さん、大気の温室効果を考えていない。さすが、熱力学第二法則に正面から向き合う科学者、温室効果などという物理法則に明らかに反するウソを捨て去り、地球温暖化の虚構を暴き出した!
本当のところ
さて、もし小澤さんが温室効果を忘れて論文を書いていたら、私は指を差して笑います。気象学者、だれだってそうです。本人もすぐに気付いて、訂正するでしょう。気付かなくても、査読者がそれを指摘します。
もちろん、小澤さんが忘れているわけはありません。本文を抜き書きしてみると、
We can see that 40% of the solar radiation () is absorbed in the atmosphere (98 W m2), and the rest of it is absorbed at the surface (). The energy gain at the surface is transported to the atmosphere by convective transport () of latent heat and sensible heat (internal energy of the atmosphere) and by net longwave radiation (). (強調は onkimo, )
"net longwave radiation" という部分に注目してください。longwave radiation は気象学の慣例で赤外線のことを指します。その ""net" ということですので、これは "(地表から大気への) 正味の赤外線放射" ということになります。
地表から大気への赤外線と大気から地表への赤外線の差と言うことなんですよね。大気からの赤外線の存在を考慮している、つまり、温室効果の存在を認めている、ってことなんです。
これ、図をみて少し考えれば明らかではあります。考えてもみてください。赤外線は温度が高ければ高いほど多く出てきます。255 K の大気が宇宙に 240 の熱を赤外線の形で出しているのに対して、それよりも温度の高い、288 K もある地表が 40 しか赤外線を出していないって、おかしーでしょ。
小澤さんはちゃんと温室効果について考えていたのです。
ま、でも、nytola さんにこのことをぶつけても、そこはエリート研究者、平然としておられることでしょう。大気からの矢印がないのは確かですから。そして、小澤さんが温室効果を無視していると言い張ることでしょう。
もちろん、SSFS さんもそれに同意されるはず。
著者の意向はどこへやら。かくして、無限に温暖化懐疑論は生成されるのです。
世に懐疑論の種は尽きまじ。
*1:Ozawa et al, 2003, THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS AND THE GLOBAL CLIMATE SYSTEM: A REVIEW OF THE MAXIMUM ENTROPY PRODUCTION PRINCIPLE, Reviews of Geophysics, 41, 4-1, doi:10.1029/2002RG000113