IAC の IPCC レビュー報告書が

公表されました。いえ、しばらく前に公表されていて、もはや旧聞に属することなのですが。


どんな報告書だったのでしょうか?IPCC に厳しい報告が出たのかな?ウェブをさまよって評判を聞いてみましょう。


たとえば、ウォールストリートジャーナル。IAC 報告書がなんなのかを含めて記事を引用します。

IPCCの運営に改革必要=IACが提言 -- ウォールストリートジャーナル日本版
http://jp.wsj.com/World/node_96396

 国連の気候変動に関する政府間パネルIPCC)が2007年に発表した報告書に誤りが見つかったことを受けて、検証を行っていた各国の学術団体で構成されるインターアカデミー・カウンシル(IAC)は30日、報告書に誤りや偏見が入る可能性を低くするために、運営構造の抜本的な改革などが必要だとする提言をまとめ、公表した。


 IACは、IPCCが「全般的には成果をあげている」と評価したが、現行の手続きを厳格化し、IPCCの報告書に「真の論争」が確実に反映 されるようにすることを求めた。またIACは、外部者を含む理事会をIPCCに設ける必要があると指摘したほか、議長の任期が長すぎるとして、現在の最長2期、12年を縮小すべきだと勧告した。


うーん、「改革必要」ですか。そんなに厳しくないように思える。議長の任期縮小勧告をパチャウリ議長の問題とつなげる人もいそうですね。そこを厳しいと取るかな?


読売新聞は、
気候変動パネル 組織・運営の抜本改革を急げ(9月6日付・読売社説)-- YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100905-OYT1T00797.htm

国連の「気候変動に関する政府間パネルIPCC)」の組織・運営について抜本改革を求める勧告が出された。


 地球温暖化に警鐘を鳴らすIPCCの報告書にいくつもの誤りが指摘され、国際的に信頼が揺らいでいた。<中略>
勧告は、これと同様に、根拠が薄弱な記述が多いことを問題視している。特に、専門家向けではなく「政策担当者向け」と銘打った要約部分に目立つという。<後略>


元記事を読んでみてください。論説文の割には事実を羅列しただけの部分が多い、あんまり執筆者が頭を使っていなさそうな文章ですね。全体的な印象は、一応批判的となるか。


もちろん、厳しい批判が出た!!!IPCC 終わったな!!!みたいなことをおっしゃっている人たちはいるのです。おなじみ、SSFS 大先生 featuring nytola さん (= harusantafe さん)


クライメイトゲート事件の最新事情(その88) -- マイナスイオン監視室
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1835549&tid=a1va5dea5a4a5ja59a5a4a5aaa5sa1w4fbbkbcbc&sid=1835549&mid=3702

★harusantafeさんが伝えるIAC報告の波紋

・国連IPCCを検証していたIAC報告書の速報。気候変動のトップ研究者らのデータ不正が市民の信頼を損なったとNY Times、身内による検証ながらIACはIPCCの閉鎖性を問題視しIPCC高官の首の挿げ替えを提案。
http://www.nytimes.com/2010/08/31/world/31nations.html?_r=1

・こちらはFOXニュースより。『IPCC報告書はほとんど証拠がないのに非常な自信を持って(温暖化を)断定した』とIAC委員会。IPCC高官の更迭を提案。
http://www.foxnews.com/scitech/2010/08/30/independent-audit-slams-un-climate-panel/


<以下略>


元記事を読んでいただければわかりますが、たっぷり報道を引用して IPCC に厳しい意見が出たことを述べています*1


すばらしい。さすが、ウェブ温暖化懐疑論の黄金タッグ。


とにかく、nytola さんによると大変厳しい報告書だったみたいです。


さて、何が書いてあったのでしょうか?IAC のレポートページはこちら

review of the IPCC -- InterAcademy Council
http://reviewipcc.interacademycouncil.net/

レポート本文の pdf はこちらから。
http://reviewipcc.interacademycouncil.net/report/Climate%20Change%20Assessments,%20Review%20of%20the%20Processes%20&%20Procedures%20of%20the%20IPCC.pdf


え、英語なんて読めるか?ですよね〜。私も読みたくありません。環境省から仮訳が発表されています。要約部分のみですが。

インターアカデミーカウンシル(IAC)によるIPCCレビュー報告書要旨(原文及び環境省仮訳)
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=16165&hou_id=12879


とはいえ、わかりやすいのはやっぱり masudako さんのページ。

IAC (InterAcademy Council)によるIPCCのレビュー: 報告書が出た -- macroscope
http://d.hatena.ne.jp/masudako/20100831/1283276575

IAC (InterAcademy Council)によるIPCCのレビュー: わたしの理解 -- macroscope
http://d.hatena.ne.jp/masudako/20100903/1283489216


みなさんはどう思われるでしょうか。ちなみに、IAC 報告書とそれにまつわることについての私の感想はこんな感じ。


温暖化懐疑論者の皆さん、あの IAC の報告で満足なの???


喜んでいる懐疑論者さんを見ていると、なんか、「列子」に出てきたおさるさんを思い出します。飼い主の生活苦から、餌のトチの実が減らされることになった猿。「朝に三つ、夜に四つでどうかな」との提案に激怒。「それじゃ、朝に四つ、夜に三つでは」と聞いて大満足。


確かに IPCC に改革が必要だという提言は厳しいものと言えないこともない。でも、この改革案、別に存在を否定するわけでも、科学に対してダメ出ししているわけでもない。中心はマネジメントの改革案です。歴史的な事情からいまのような体制を取っている IPCC ですが、いつの間にか大きくなってしまった仕事と役割に比べ、組織が不十分だと思います。IAC の改革案は、新しい時代の組織へと IPCC を生まれ変わらせるための提案が多いように私には読めました。


人為起源温暖化なんて嘘だ、世界を間違った方向に導いている、それをたださなければ、と、志の高い懐疑論者の方は思っているはず。その問題の中心に居座るのが IPCC です。でも、そんな懐疑論者の思いとは逆の方向を IAC の報告書は目指している。


パチャウリやめろっていわれたー、IPCC だめぽ www とか言いたいだけならいいのですが。でも、志が高いにもかかわらず今回の IAC 案で喜んでいる懐疑論者は、まるで朝三暮四のおさるさん*2


IAC 報告書に対する私の意見は、mokkei1978 さんのつぶやき、
http://twitter.com/mokkei1978/status/22959488644

[地球温暖化]IPCCの改善案について。気候変動に関する常設の国際組織になったら素晴らしいねー。 / IAC (InterAcademy Council)によるIPCCのレビュー: わたしの理解 - macroscope http://htn.to/6d7YCu

にかなり近いです。そして、mokkei1978 さんが引いているように、私の意見のベースとなる IAC 報告書についての理解も masudako さんの理解に近い。


とはいえ、すばらしい、だけではない。ちょっとした、でも、無視できない懸念と、一抹の寂しさのようなものもないではない。


次の記事で長々と書いてみましょう。

*1:それにしても、nytola さん、たぶん SSFS さんも、 FOX ニュース大好きですね。あと、NYT の記事の要約があのようになるとは、さすが、在外研究者 nytola さんの底知れぬ英語力、私には理解できない。

*2:なお、マスコミが IPCC に批判的な形で取り上げることに関しては、また違った感情を抱いています。機会があったら書いてみたい。