ビョルン・ロンボルグさんという

経済学者政治学者をご存じの方、このブログの読者には多いでしょう。温暖化懐疑論の方々のカリスマ的な存在の方です。


まとまった紹介は、wikipedia:ビョルン・ロンボルグをお読みあれ。


で、こんなブログを書いている私ですが、ロンボルグをきちんと取り上げたことはありませんでした。懐疑論者としてはぜひ論じてみたい人物ではあったのですが、守備範囲外だったのです。彼は基本的に経済を中心に温暖化懐疑論を語っており、温暖化の科学に関してはかならずしも懐疑的とも言い難かった。


以前、「地球と一緒に頭も冷やせ!」という本を読んだのですが、


地球と一緒に頭も冷やせ!


この中でも人為起源温室効果ガスによる地球温暖化を否定するような言説をまともには取り上げていなかったように思います。まあ、スベンスマルクを取り上げてみたり、ラーセン B の崩壊を驚くべきことではないと言ってみたり、温暖化問題を小さく見せるような結果だけを並べる、いわゆる「チェリーピッキング」をしているようには思えましたが、それもこの本が行き過ぎた (と彼が考えている) 温暖化対策への対抗言論であるとするならひどいものではなかった。


とはいえ、いつか取り上げようとは思い続けていたので、先日こちらの記事を見てびっくりしてしまいました。


Bjørn Lomborg: $100bn a year needed to fight climate change -- Environment -- The Guardian
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/aug/30/bjorn-lomborg-climate-change-u-turn


なんと、これまでの発言を翻してしまったようなのです。


The world's most high-profile climate change sceptic (onkimo 注: Lomborg のこと) is to declare that global warming is "undoubtedly one of the chief concerns facing the world today" and "a challenge humanity must confront", in an apparent U-turn that will give a huge boost to the embattled environmental lobby.


onkimo 適当訳

世界的に知られた温暖化懐疑論者 (onkimo 注: Lomborg のこと) は、地球温暖化を「世界が直面する最大の問題の一つであることに疑いはない」「人類がかならずや立ち向かうチャレンジである」と述べた。明らかな転向であり、防戦に躍起になっている環境ロビイスト達への力強い励ましになりそうだ。


今回の件、polly さんのブログ、「気候変動覚え書き」で取り上げられていました。


ロンボルグが転向。巨額の気候変動対策の必要を認める -- 気候変動覚え書き
http://ptrboundary.at.webry.info/201009/article_1.html


掲載されたロンボルグ評が非常に印象的で、かつ、同意できる点が多かったので、長めに引用させて頂きます。


…、気候変動に対する科学的な批判という意味ではロンボルグ氏は特異な地位を占めており、氏の転向は感慨深いものがあります。Guardianに載った氏の発言記録を読み、色々なことを考え合わせると、氏からは氏なりの知的誠実さを感じます。他人の言葉を鵜呑みにせず、広くサーベイを行い、自分に理解できた範囲で手堅く結論を導く。転向のきっかけは氏が主催するコペンハーゲン会議で、2004年、2008年と会議を主催してみて、経済学者たちの話に耳を傾けた結果だそうです。ある意味、きわめて真摯かつ真っ当な手順を経て考えを変えたらしい。ただ、そこにたどり着くのに何故そこまで遠回りをしなければならなかったのか、物の見方のバランスが悪すぎるのでは、とも思います。要は「センスが悪い」のでしょう。


ただ、真摯に努力して才能のなさを克服しここに到達したことには、おなじく凡庸な人間として、深い敬意を。


polly さんやロンボルグが凡庸な人間だとは思わないのですが、ロンボルグが遠回りをしたことと、知的に誠実だったことについては同意したいと思います。


もちろん、ロンボルグがさらに考えを変える可能性もあると思いますけどね。ただ、自分が調べてきたことに基づいて自分が信じたことを、自分の責任で自分に誠実に述べるのなら、いいことなのだと思います。彼ほどの能力を持った人の場合、それで間違えたら世界を振り回すことになるのですが、それも人類が良い方向へ向かうためのコストなのでしょう。


今後もロンボルグについての情報にはアンテナを立てておきたいと思います。<2010/09/08 追記>
コメント欄で山形さんと . さんからロンボルグ関係論争のリンクを教えていただきました。ロンボルグの著書、「環境危機をあおってはいけない」に関して、Scientific American に批判が出たのですが、それに対するロンボルグの反論です。


山形浩夫さんのウェブページから引用させてもらいましょう。

『環境危機をあおってはいけない』サポートページ
http://cruel.org/kankyou/

Scientific Americanとの論争(日本語訳):http://cruel.org/kankyou/sarebuttal.html および pdf 版 (630 KB)


 日本版のためのあとがきにも触れられている、Scientific American 2002 年 1 月号(抄訳は「日経サイエンス」2002 年 7 月号) に載った科学者 4 人による批判と、それに対するロンボルグの反論。まとまった批判と反論としてはこれが最大でいちばん詳しい。その後、ロンボルグの反論に対して 1 人を除き科学者たちは反論せず、編集者の John Rennie がかれらの話をきいて再反論をまとめている。本稿の原文を含めた一連の議論については、Scientific American のページを参照。また、Scientific Americanの方針に対するマット・リドレー他の怒りの手紙については著者のページを参照。

(リンクは元ページのまま。リンク切れのものも有り。)


山形さんには、上記の "pdf版" のリンクを教えていただきました。

Scientific American (SA) 2002年1月号での11ページにわたる批判に答える
http://cruel.org/kankyou/sarebuttal.pdf


これについて、. さんから Scientific American 側からの反論ページを教えていただきました。

A Response to Lomborg's Rebuttal -- Scientific American
http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=a-response-to-lomborgs-re


ほんと、私、ロンボルグについてなんにも知らないんですね…