続きです。IPCC の報告書に

大量の査読されていない論文が見つかった事件。


先に以下の記事をお読みください。


IPCC の報告書に大量の
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100609/1276073314

武田邦彦さんがまた
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100608/1276010507


ここでは、最も査読論文の数が少なかった第三作業部会報告書の 4 章を見てみましょう。この章では 360 の文献があるのですが、そのうち査読されたのは 54 しかなかったとのこと。

Working Group 3, Chapter 4 of the 2007 IPCC report -- noconsensus.org
http://www.noconsensus.org/ipcc-audit/2007/WG3chapter4-A.html


IPCC レポートはこちらです。



http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg3/ar4-wg3-chapter4.pdf


まあほとんど査読付き論文が無いわけです。たとえば、初っぱなから


No. 1

1. AEI, 2003: $1.15 billion oil backed fresh cash, Africa Energy Intelligence. American Enterprises Institute for public policy research, Washington D.C.


これ、American Enterprises Institute (AEI) のレポートですね。私の理解では、非政府系の保守的なシンクタンクで、温暖化論もしくは温暖化対策にはいささか懐疑的だったところだと思います。持続的なエネルギーの利用に関する記述で、産油国原油を担保に借金をしている話のところで参照されている。


No. 2

Andrews, S. and R. Udal, 2003: Oil prophets: looking at world oil studies over time. Association for Study of Peak Oil Conference, Paris.


これは何でしょうか、私が思うになにかの国際会議の発表だと思います。石油の埋蔵量の推定について、時代を追って眺めた論文かな?グラフのキャプション内で参照されている。


それにしても、なんと言っても目立つのは、次のタイプ。


No. 122

IAEA, 1997: Joint convention on the safety of spent fuel management and on the safety of radioactive waste management. INFCIRC/546, 24 December 1997 (entered into force on 18 June 2001); http://www.iaea.org/publications/documents/infcircs/1997/infcirc546.pdf accessed 05/06/07.


国際原子力機関 (IAEA) のレポート。ウェブページのものですね。


IAEA にかぎらず、IEA, IMF, OECD など国際機関のレポートがたくさん。


似たようなタイプのものとしては、

No. 319

USGS, 2004a: United States Geological Survey fact sheet, December 2. http://marine.usgs.gov/fact-sheets/gas-hydrates/title.html accessed 03/07/07

アメリカ地質調査所 (USGS) のレポートです。アメリカの政府機関。アメリカに限らず、オーストラリアとかデンマークとかいろんな国の政府機関の報告書が参照されています。


さらに、

No. 20

BP, 2004: Statistical review of world energy, BP Oil Company Ltd., London. accessed 05/06/07.


これは BP ですか。BP は、むかしは British Petroleum という名前の、いまは BP という名前になった石油会社。メキシコ湾でやらかしているあの BP です。この手の民間会社のものも目につきます。


先に見た WG1 第 6 章にあるタイプの査読されない文献もありますが、上に上げたような、政府、国際機関、民間企業、シンクタンクなど報告書がたくさん参照されています。


そして、査読文献は少ないですね。本当に少ない。


正直、これだけ少ないと私としては不安になります。Reference だけ見ると。


とはいえ、この章は何の章かというと、エネルギーの供給に関する章。現在、そして将来のエネルギー源は何がどのくらいの割合か、石炭は、石油は、原子力は、水力は、地熱は…。


これらのことを議論するには、各国のエネルギー政策や国際的なエネルギー政策をレビューする必要があります。政府や国際機関の発表を根拠にせざるを得ないでしょう。また、どのような技術が開発されているか、などといったことを調べる必要があるわけです。民間の企業の言っていることにも耳を傾けないといけない。


それでも査読付き論文があればいいなと私は思います。ですが、学問の成果たる査読付き論文にするのは、ちょっと難しいのかな。


たとえば政府機関の発表をまとめただけだと、なんというか、知的付加価値が低いので、論文として成立しにくいだろうなと思います。


だから、参考文献中に査読付き論文の数が少ないのは致し方ない。


とはいえ、WG1 の報告書とはかなりちがうな、と思いました。


次回、感想を書きたいと思います。