前記事の続きで、別の毎日新聞記事に

ついて思ったことを書きます。


前記事
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100517/1274107377


コメント欄もあわせてお読みください。


今回の学術会議シンポに関するいくつかの新聞記事、および、フリージャーナリストの tweet を読んで、あらためて、メディアの定見のなさを感じました。


今後、日本のマスメディアが一斉に温暖化懐疑論に振れても、私はあまり驚きません。どうなるか。動きを見ていきたいと思います。


最近よく思うのです。情報を垂れ流すだけの新聞って、どんな意味があるのだろう、と。


でも、そういっているだけでは建設的ではないので、ちょっと思ったことを。学術会議シンポを扱った、毎日新聞の別の記事についてです。


IPCC:国連報告書、ミス多発 信頼回復が急務 背景に温暖化研究の南北格差も -- 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20100510ddm016040007000c.html


こちらも先の社説と同じレベルの記事です。が、一点だけ。

 「途上国での研究が不足している」「データや研究過程に不透明さがある」−−。討論会では、出席者から温暖化研究のさまざまな課題が提起された。

 IPCCの報告書の作成は、「査読」と呼ばれる審査を経た論文を引用するのが原則だが例外もある。一例が、誤りがあったヒマラヤ氷河の分析で環境団体の報告書からの引用だった。

 背景には、途上国での観測や分析が極めて乏しいことがある。実際、第4次報告書には約3万件に及ぶ世界での温暖化異変が紹介されているが、その99%は欧米で占められている。環境省幹部は「科学的知見は不十分だが、アジアでの温暖化影響も盛り込もうとしてミスを招いたのではないか」とみる。IPCC報告書の執筆者は「査読なしの記録にも頼らざるを得ない。温暖化研究における南北問題が原因」と漏らす。


タイトルにもあるとおり、「南北格差」について書いてます。


これ、実は重要な論点です。


以前にも書きましたが、温暖化の研究において、発展途上国と先進国の間には大きな、とても大きな差があります。


江守さんが今回の IPCC WG2 報告書の
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100129/1264717111


ヒマラヤの話は、南北格差というゆがみが露呈した結果なのです。


本当に、格差は激しいのです。気候学の論文は、米欧がどーんと大きな割合を占めていて、日本もがんばっていて、他には、豪、加などのアングロサクソン系の国かな、とにかく、先進国に偏っています。中国人の名前はよく見るのですが、その多くが米国の研究機関に在籍しています。もちろん、アジア諸国も少しずつ論文を書いていますが、まだまだ。


これを読んで、「ほら、地球温暖化問題は先進国が発展途上国の発展を妨げるための陰謀だ。発展途上国の論文を排除しているんだろ」なんて言う人は、はっきり言って何もわかっていない。


そんなこと、欧米の、特にアメリカの科学者達、そして、科学者のコミュニティが、いかに世界各国の良質な研究成果と、科学のトップエリート達を取り込んで自分たちの血肉に変えようとしているかを知らないから言えるのです。それは、東洋の端っこの、世界を支配した経験のない、小金持ちではあるけれど、スパコン作るときに「一位でなければだめなのか」なんて言われてしまうけちくさい国の人間だけに思いつけるげすの勘ぐりです。


まあとにかく。IPCC における南北格差は、新聞こそが扱える重要トピックだと思います。


なぜ、南北格差が生じるのか。そのことによって、IPCC の場にどんな弊害が起きているのか。自分たちの研究成果が IPCC に反映されない悲哀、欧米の言いなりになりたくないのに、なんら反論さえできない無力感、それを覆すための苦闘、そこで日本が果たせる役割と、それが日本にもたらす効果 *1


こんなことを記事にするのは、温暖化の研究者では無理。フリージャーナリストにもできない思います。ましてや、そこらへんのブロガーが書けるわけはない。


有能な人の集まった、組織的な取材力のある新聞社にこそ書ける記事なのです。


マスを相手にする新聞社は、科学知識単独ではそんじょそこらのブロガーに勝てなかったりします。でも、新聞社には総合力があるはず。


毎日新聞の記者さんは、学術会議の場で南北格差について知ったわけです。それを、ただ垂れ流すだけなのか。それとも、そこから新聞社にしか書けない記事を生み出せるのか。


まあ、あまり期待せずに見守っていきたいと思います。

*1:いやいや、今、日本は IPCC の中では先進国と言えますが、うかうかしていられません。今の発展途上国の姿は、10 年後、20 年後の日本の姿かもしれないのです。