江守さんが nikkei ecolomy で

書いておられたコラムが最終回になってしまいました。


温暖化イメージ戦争の時代を生きる(10/03/18)
http://eco.nikkei.co.jp/column/emori_seita/article.aspx?id=MMECza000016032010


温暖化研究の中心にいる人にしか書けない情報が読めただけに、終わってしまったのが残念です。温暖化の科学面を研究する人たちからの情報発信は必ずしも多くありません。その中で、江守さんは高い意識を持って科学と研究活動のわかりやすい解説を、いろいろなチャンネルを通じて展開されています。このコラムもその一つでした。


一年ちょっとにわたる連載の中で、江守さんは主に懐疑論が扱う論点に対して論じてこられました。いえ、懐疑論というより、普通の人が疑問に思っている点について、温暖化研究の中心にいる研究者の一人としての考えを述べてきた、という方が正しいでしょう。昨年末からは climate gate 事件に関する解説が多くなって、私としては残念でした (江守さんの責任ではないですが) が、それでも毎回楽しく読んでいました。


最終回ですが、温暖化懐疑論とそれに賛同する人たちのことについて論評されています。欧米では石油・石炭業界や保守系の団体が積極的なロビー活動を行って懐疑論を展開していること、それに比べて日本は平和であること、日本で懐疑論を信じる人たちは知識層に多く、「みんなはだまされても、自分は簡単にはだまされないぞ」という意識が働いているのではないか、それは健全な懐疑ではあるが、一方で温暖化論がインチキだと信じ込んでいる人もいて、そちらは理解できない、とのことが書かれていました。


そして、情報を受け取る際に江守さんが参考にされていることを書かれています。それは、

  • 内容の整合性に注意すること
  • 裏をとること
  • 書き手の中立性に注意すること

だそうです。


これは、もちろん一般の人が採用すべき基準でもあります。懐疑論に出会ったら、そう言う意味では温暖化を支持する論説に出会った時も、ぜひこの点に留意してください。


江守さんの言うことをそのまま書くだけでは私としてはつまらないので、一言付け加えます。温暖化に関する情報に接する際にとってほしい態度、それは、

  • 温暖化の科学をおもしろいと思うこと

です。


そもそも、気候の科学はおもしろいものなのです。もちろん、たとえば天文学のような時間、空間の広がりはないですし、高エネルギー物理学のような極小で極端な世界の話でもありません。古生物学のようなロマンもないのです。いわば、空を見たらそこにある、毎日ニュースで見聞きする、天気に関する科学です。常識的で、わくわくするようなことなど何もないなどと思われるかも知れません。


でも、おもしろいですよ!気候学。地球の温度がどんな風に決まっているのか、なぜ日本に梅雨があるのか、黒潮やメキシコ湾流のような強い海流はなぜ大きな海の西側にあるのか、エルニーニョはなぜ起きるのか、雲はどのようにできるのか、地域ごとの気候にどのような特徴があり、それはどうやって決まるのか、などなど。そこには、自然の多様さ、精妙さと、それを解き明かそうとする人間の営みがあるのです。


今、温暖化懐疑論者の人たちは、温暖化研究者側が間違っている、という批判を繰り広げています。そして、その論拠は一見すると正しそうです。専門家でない人には、懐疑論に含まれる誤りを見抜くことは難しいでしょう。


でも、すぐに判断を下す必要はないのです。懐疑論に触発されて疑問を感じたら、興味を持って調べてみてください。意外におもしろい世界が広がっていますよ!


地球温暖化問題自体は科学だけの問題ではありません。でも、将来温暖化するか、どのように、どの程度温暖化するのか、というのは、科学が扱う問題です。そして、科学は本来おもしろく楽しいものなのです。そして、その科学をおもしろいと思える態度こそが、イデオロギーなどに左右されない正しい知識に導いてくれるのです。


気候学は、そして、そのベースとなる気象学や海洋学は、決して災厄を予言するためだけに存在しているわけではありません。地球を知りたいという人間の欲求から得られた知識から、結果的に人類の将来についての示唆が得られている、というだけなのです。地球が温暖化するという結果の背後には、豊かで興味深い科学が潜んでいます。


いろんな発見があるはずですよ。ぜひ、温暖化の科学を楽しんでください。懐疑論者とその批判者の論争を楽しんでください。そうすることで、温暖化研究者の述べること、懐疑論者の述べること、そのどちらが正しいか、自分の意見ができてくるはずです。


江守さんは、温暖化の科学をおもしろく語ってくれる貴重な人の一人だと思います。また別なところで江守さんの文章に出会えることを願いたいと思います。