スベンスマルク本に出てくるイオンシーディング説に

ついて、専門家でも何でもない onkimo が、これまで読んだ文献のおぼろげな記憶だけを頼りに知ったかぶりで説明しちゃうよ。だいたいスベンスマルク本も読んでないから、そちらに詳しい説明があったら大恥、"幼稚" なやつだといわれそうだけど、まあ、いまさら多少恥の上塗りをしても関係ないからいいや。だいたい、onkimo はイオンシーディング説が業界で通用している名前なのかどうかも知らないんだぞ!


いつかちゃんと調べて書くから、鵜呑みにしないでね。ちょっと妄想も入っているかも。でも、書いてしまった責任はあるから、間違いの指摘、おまえはあほか的な非難は大歓迎。


ことの発端については、この前の記事を読んでちょうだい。

スベンスマルクの本が翻訳されました。
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100314/1268528309


あと、元々の finalvent さんの記事も。

[書評]“不機嫌な”太陽 気候変動のもうひとつのシナリオ(H・スベンスマルク、N・コールダー)-- 極東ブログ
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/03/post-4aa8.html


イオンシーディング説


イオンシーディング説は何を説明するための説だろう?


雲ができるためには、雲凝結核 (Cloud Condensation Nuclei, CCN) が必要。空気に浮かぶちりのうち、ある条件を満たすものが雲凝結核とよばれるんだ。前に書いたから、興味があったら読んでね。


みんな大好きスベンスマルク (4) 雲も大事だスベンスマルク (上)
http://onkimo.blog95.fc2.com/blog-entry-74.html
みんな大好きスベンスマルク (5) 雲も大事だスベンスマルク (下)
http://onkimo.blog95.fc2.com/blog-entry-75.html


雲凝結核にもいろいろタイプがあって、スベンスマルクで関係してくるのは空気中の硫酸などが水分子と一緒に固まったやつ。大きさは百 nm (nm: ナノメートル10^{-9} m) くらいで、これより小さいと雲凝結核にはなれない。


どの雲凝結核も最初からその大きさだった訳じゃない。一個の硫酸分子からスタートして、空気中の硫酸分子が集まって成長していくわけ。


でもね、研究者たちが理論的に考えたところ、空気中に十分な数の雲凝結核があることをうまく説明できなかった。


どうしてか?


一旦、ある大きさの固まりができたら、それは比較的すくすくと成長して、雲凝結核へと成長していくんだ。この部分には問題は無い。


この、雲凝結核の種になる、ある大きさの固まり、それは凝結核 ("雲"が付いていない "凝結核"、英語では condensation nuclei, CN 。やはり略称の C が一個少ないことに注意。ややこしい!) と呼ばれていて、数 nm 以上の大きさの、硫酸分子と水分子の集まり。雲凝結核より小さい *1


そして、この凝結核を分子から作るのが難しいんだよね〜。


凝結するというのは、空気中の硫酸分子がぶつかってくるのを受け止めて粒子が成長していくことなんだ。粒子が十分な大きさを持っていれば、問題ない。ガツンとぶつかってきても、みんなの力で支えられる。


でも、粒子が小さいときはどうだろう?たとえば二つの硫酸分子がくっついている粒子に三つ目の硫酸分子がどかーんとぶつかってきたら?粒子はぶっ壊れそうだよね!


こんな風に考えてみて。地球に直径 100 m の隕石が、秒速何十 km とかのスピードでぶつかっても、人類社会はびっくりかもしれないけど、地球的には平気だ。吹っ飛ぶようなことはない。隕石を吸収して成長できる。でも、直径 200 m の隕石に直径 100 m の隕石ががっつーんとぶつかったら?両方とも壊れてしまう可能性が高いよね。それとおんなじ。


だから、一旦大きくなってしまえば問題ないけれど、粒子が小さいときは成長するのが大変。


そもそも、最初に二つの硫酸分子がくっつくところが最大の難関。空気中を秒速数百メートルとかで飛び回っている二つの分子がぶつかるから、お互いをはじき飛ばす可能性が高くて、なかなかくっつけないわけ。


言い方を変えてみようか。硫酸の分子同士は、電気的な力など、分子間に働く力でくっつくことができる。でも、分子がそれぞればたばた動いていたら、つなぎ止められないかもしれない。ここでエネルギーという言葉を使っちゃうけど、このことは、二つの分子からなる粒子がエネルギーを持ちすぎていたら、分子間力では二つのつなぎ止めることができず、その粒子は壊れてしまう、と表現することができる。わかってくれるよね?


二つの分子が衝突して、一瞬くっついたとしよう。そのとき、分子は大量のエネルギーを持ってる。当たり前だ、もともと離れているというエネルギーの高い状態のものがくっつき合ったわけだから。エネルギーをうまく抜いてやらないと、二つの分子は再び離れちゃう。


じゃあ、エネルギーを抜く方法ってあるのかな?研究者の常識的では、エネルギーを赤外線として外に放り出すとか、周りの空気の分子に渡してあげるとかが考えられるのだけど、そんなふつうのプロセスでは、エネルギーが抜かれる前に、二つの分子はつなぎ止める力を振り切って離ればなれになっちゃう。


今、研究者たちが知っているメカニズムでは、二つの分子がくっつけるのは難しすぎる。それでも自然界には多数の凝結核が存在している。なにか、我々の知らないエネルギーを抜くメカニズムがあるはずだ。


そこで、やっとイオン・シーディング説の出番だ。


この説では、名前の通り、イオンが重要な役割を果たす。イオンっていうのは、電荷を帯びた粒子。電子そのものとか、電子を取られちゃった分子とかのこと。


最初に硫酸分子とイオンがくっついている。硫酸みたいな酸は、その分子の構造上、イオンと仲が良い。そこにあらたな硫酸分子が突っ込んでくると、イオンが振り払われて外に飛び出す。せっかく仲良く硫酸分子とくっついていたのに、袖にされるイオン。無理矢理仲を裂かれるときにエネルギーが使われるわけだ。慰謝料代わりのエネルギーを押しつけてイオンを追い出した二つの分子はくっついて粒子となり、それがすくすく成長し、やがて雲の核になりました、めでたし、めでたし。


これがイオンシーディング説 (のはず) だ。


もちろん他にも説があって、たとえば三体衝突。二つの硫酸分子と、もうひとつ、第三の分子がほとんど同時に衝突し、第三の分子がぴゅーっと飛んでいくことでエネルギーが抜かれるという説 (のはずだよな〜、電磁的なプロセスとか働かないよね?)。


他にどんな説があるか、何が有力と思われているかはわかんないから、専門家に聞いておくれ。今はまだ結論が出ていないんじゃないかな?


で、専門家だとおぼしき人たちのページを見つけたので、載せておく。スベンスマルクがらみで研究していると思うんだけど、本文中にはでてこないねぇ。実は関係ないかもしれない。僕の勘違いだったらごめん。


エアロゾル -- SESM/JAMSTEC
http://www.jamstec.go.jp/less/space_earth/ja/2009/01/aerosols.html


スベンスマルク説とイオンシーディング説


で、スベンスマルク説なんだけど。


まず、このイオン、硫酸粒子をくっつける働きをするけど、くっつける際には自分自身は変化しない。このような物質を、触媒、って言うんだけど、聞いたことがあるかな?化学反応を助けるけど、自分自身はその反応から影響を受けない物質。


だから、一個イオンができれば、何個も何個も硫酸粒子をくっつけられる。


でも、空気中のイオンは、別な、逆の電荷を持つイオンと出会ったらくっついてしまう。つまり、イオンじゃない物質に戻ってしまう。触媒であっても、いつかは無くなってしまうんだ。だから、どうにかしてイオンを作り出さなきゃならない。


スベンスマルクは、銀河宇宙線がこのイオンを作り出す過程に大きく関係している、と言っているわけだ。そのあたりのことは、以前書いたことがある。

みんな大好きスベンスマルク (3) 宇宙線だよスベンスマルク (上)
http://onkimo.blog95.fc2.com/blog-entry-73.html


でもね、空気中のイオンは他の方法でも作られるわけで。たとえば、雷。そのほか、空気中のラドンや地表の放射性物質が出す放射線。どれがどのくらいの量のイオンを作っているかはよく知らん。


もし銀河宇宙線がメインだったら、スベンスマルク説のメカニズムが重要になってくるよね。本当のところはどうなんだろう?スベンスマルクはちゃんとおさえているのかな?


ちなみに、このあたりのことを考えて気候に与えるインパクトをしらべたよ、という論文は、短報の形だけどすでにあって、

J. R. Pierce and P. J. Adams, 2009, Can cosmic rays affect cloud condensation nuclei by altering new particle formation rates?, GRL, 36, L09820
http://www.agu.org/pubs/crossref/2009/2009GL037946.shtml
(アブストラクトは無料。全文読むためにはお金がかかります)


で、結果、銀河宇宙線は効かないんだって!これがどのくらいの重要性がある研究なのかはよくわからないけど、中身を読んで、onkimo としては、まあそうだよな、と納得できる結果が出ていた。でも、是非とも反論を読んでみたいところ。あと、短報じゃない、フルペーパーの続報も読みたい!


で、だいたい言いたいことは終わったけど、最後に極東ブログの記事にコメントしておきたいな。finalvent さんはこう書いているんだ。


NASAを中心として研究 (onkimo 注:たぶん、エアロゾル成長に関する研究) とスヴェンスマルク氏の仮説の関わりは、率直なところ私は本書からは読み取りづらい。私の理解では、スヴェンスマルク仮説は、このイオン・シーディング説をより詳細に、かつ実験的なプロセスとして提出したことだろうと理解している。


スベンスマルクの仮説と NASA の研究の関わりってなんだろうね?スベンスマルクの仮説は、NASA の研究の応用になるんじゃないかな。応用とはいえ重要で、もしスベンスマルクの仮説が正しければ、イオン・シーディングがエアロゾル形成で大切だということと、イオンを作り出すのは銀河宇宙線 (が生じる二次宇宙線) がメインだ、ということがわかるわけ。


言い直そう。スベンスマルク説が正しかったら、イオンシーディング説は正しいことになるから NASA の研究者たちはうれしいだろう。一方、スベンスマルク説が間違っていた、という事実だけでは、イオンシーディング説は否定されない。宇宙線じゃない別なメカニズムが大事だったんだね、ということで、NASA の研究者は、スベンスマルク説を忘れて先に進むんじゃないかな。逆に言えば、っていうか、対偶を言えば、イオンシーディング説が肯定されたからといって、スベンスマルク説が肯定されるわけでもないんだよ。


実験的なプロセスとして提出 のところはよくわからない。なんだろ?たぶん SKY 実験について語っているんだとおもうけど、どうだろ。


SKY 実験について調べてみたんだけど、なんかいまいちよくわからないんだよね。スベンスマルクが行った実験なんだけど、たぶん、あの実験によってイオンシーディング説が証明されたとスベンスマルクは言いたいのだと思う。でも、あの実験設定と結果では、onkimo は納得しないけどな!


さて、もうだいぶ長くなったし、疲れたからここで一旦終わりにするよ。


スベンスマルクがやった実験についてはまたその気になったら書くよ。前にブログ本体でも取り上げたから、興味があったら読んでね!

みんな大好きスベンスマルク (10) クラウドでスカイ、スベンスマルク(下)
http://onkimo.blog95.fc2.com/blog-entry-80.html

*1:ちなみに水の分子は 0.3 nm とか。硫酸はそれよりも大きいと思うけど、1 nm よりはちいさいのかな?凝結核の数分の一なんだと思う。