コメント欄での論争って、大変だと

おもいました。こちらの記事のコメント欄での、綾波シンジさんと早秋さんの論争です。まだ続いているようです。


GCRとTemp -- 環境問題補完計画
http://blogs.yahoo.co.jp/eng_cam_fld_tgs/38656390.html#42130361


なお、綾波さんには「温暖化の気持ち」に数回コメントいただきました。感謝しております。


ということで、感情的には私は綾波さん側ですし、また、論争における立場も綾波さんに非常に近い、ということは最初に言っておいたほうがよいでしょう。


私がググるなどして調べた限りでは、ことの経緯はこうです。始まりはこちらのブログでした。


激論 地球温暖化VS寒冷化 朝まで生テレビ -- ごみゼロ日記 静岡
http://ameblo.jp/gomizeo/entry-10331613317.html


ブログ主のごみゼロ君さんが、朝生での江守さんと丸山さんの議論について、江守さん圧勝との判定を下したところ、それに早秋さんが反論されました。


ちなみに、この朝生討論に関しては、この日記でも取り上げたことがありました。興味があったらご参照ください。といっても、私自身が見ていなかったので、ウェブをうろつき回って情報を集めただけですが。

http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20090831/1251690233
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20090901/1251798308
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20090902/1251859896
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20091026/1256527856


コメント欄での論争のため、早秋さんの論旨を把握するのがむずかしい。綾波さんとの議論に関連するところだけまとめると、こういうことでしょうか。


江守さんが論破したのは、丸山さんの議論ではなく、根本順吉さんの議論であって、これは丸山さんが研究の着想を得たものとして紹介しただけである。それに、江守さんの側だって、20 世紀の再現に必ずしも成功していない。だから、江守さんの勝ちは言えない。

また、江守さん側には現在の温暖化を研究する際に、悠久の広がりを持つ地球史的な観点が欠けている。

だから、今回の論争を江守さんの勝利とするのは誤り。今後の予測に関しては、江守さん、丸山さんとも外れる可能性がある。議論を見守る立場としては、どちらの仮説にも同じくらいの距離感を保っておくべき。

そのほかに、丸山さんはこれまでの気候変動がすべて宇宙線で説明できると言っているわけではない、ということも主張されています。あと、丸山さんのことを丸山先生、江守さんのことを江守君、と、敬称を使い分けられているところに、早秋さんの強烈な想いが透けて見えますね。


で、この早秋さん対して、綾波さんが反論します。反論の焦点はしだいに宇宙線の話に絞られ、で、舞台は移って、最初にあげたこちらのページ。


GCRとTemp -- 環境問題補完計画
http://blogs.yahoo.co.jp/eng_cam_fld_tgs/38656390.html#42130361


宇宙線と気温の関係のグラフの解釈が議論の中心になります。


綾波さんは、1960 年以降の宇宙線の強度と地球の気温のグラフを示して、振幅を合わせれば長期変動が合わず、長期変動を合わせれば振幅があわない、ということを示しています。これは、他の人も指摘していますね。


太陽活動だけでは地球温暖化は説明できない -- 海の研究者
http://goto33.blog.so-net.ne.jp/2008-07-21

むしゃくしゃしてやった。今は反省している。 -- 雑多な覚え書き
http://d.hatena.ne.jp/t0m0_tomo/20090902/1251865556
の、「地球温暖化頂上決戦:人間?自然?」
# ごみゼロ日記さんのページにほとんど同じ動画が貼り付けてある (画質が劣化していたり、BGM が変わってたりの違い) のだけど、ちょっとまずくない?だれだろ、ウェブにあげた人?著作権とかマナーとかどうなってるのだろうか?


これに対して、早秋さんはグラフが宇宙線原因説と矛盾しないとの解釈を披露。綾波さんと熱く議論を戦わせていらっしゃいます。もはや私にはまとめる気力がないので、どうぞ直接元記事をご覧ください。


で、思ったこと、気づいたこと。


1. 宇宙線と地球気温に関する新しい解釈


早秋さんは、

すなわち、基準値より減少している期間の宇宙線量は気温を上昇させる方向に作用すると解釈でき、しかもその期間が大半ですので、気温は上昇傾向を続けることになります。
とおっしゃっています。え、これ、普通にスベンスマルク説だろ、って思われた方、違います。


スベンスマルク説では、宇宙線の減少により、地球が高温になる、というものです。一方、早秋さんの御説は、宇宙線の減少により、地球の温度が上昇傾向になる、ということ。


文章で言うと分かりにくいんですよね…。数学的に言えば、宇宙線の量は地球の気温と相関がある、というのがスベンスマルク説、宇宙線の量が地球の気温の時間微分と相関がある、というのが早秋さんのおっしゃること


この説、はじめてお目にかかりました。早秋さんによると、丸山さんがそうおっしゃっていたとのこと。


個人的には早秋さんの誤読ではないかと思っています。丸山さんがそんなことをおっしゃるとはあまり思えませんので。(いえ、早秋さんのオリジナルの説であるならそれはそれでいいのですが。)


ですが、確たることはわかりません。私、別に丸山さんの著書を全て追っているわけではありませんから。もし丸山さんがそのようなことをおっしゃっているなら、ぜひ読んでこの日記かブログ本体で取り上げたいと思います。たのしみ。


なお、丸山さんの持論については、ブログ本体の方でこんな記事を書いたことがありましたので、お暇ならお読みください


丸山茂徳さん、がんばって! -- 温暖化の気持ち
http://onkimo.blog95.fc2.com/?tag=%B5%AD%BB%F6%3A%B4%DD%BB%B3%CC%D0%C6%C1%A4%B5%A4%F3%A4%AC%A4%F3%A4%D0%A4%C3%A4%C6


また、スベンスマルク説に関しては、途中ですが次のようなシリーズ記事を書いています。こちらもお暇なら


みんな大好きスベンスマルク -- 温暖化の気持ち
http://blog95.fc2.com/onkimo/?tag=%B5%AD%BB%F6:%A4%DF%A4%F3%A4%CA%C2%E7%B9%A5%A4%AD%A5%B9%A5%D9%A5%F3%A5%B9%A5%DE%A5%EB%A5%AF


2. コメント欄で議論することの難しさ。


コメント欄はあまり科学の議論に向いていないと思います。制約が多すぎるので。


制約とは…。文字情報だけであること。一つ一つのコメントが短くなってしまうこと。論者によってコメント欄の使い方のスタイルが様々であること。訂正がしにくいこと (これは言葉尻の問題や揚げ足取りを頻発させる要因になる)。議論が細切れになり、複数の論点があった場合に混乱が起こること。


その結果として生じるものの中で、一番の問題は、まとまった意見の表明がむずかしいことかな。


今回の場合も、私には正直言って早秋さんの言っていることが分かりません。丸山さんの議論をベースにしているとはおっしゃっているのですが、完全に一致しているわけでもなさそうで、どこまで一緒でどこから違うのかがわからない。


綾波さんも同じではないでしょうか。丸山さんの意見を批判しようとすると、早秋さんの独自の意見が出てきて混乱する。どうしても議論の精度が落ちてしまう。


でも、これはたぶん早秋さんの責任ではなく、議論がコメント欄で起きているせいだとおもいます。


3. 研究者と非研究者の違い、もしくは専門家と非専門家の違い


これはコメント欄に限らずそうだと思うのですが、専門家と非専門家の間での議論は大変です。専門家は非専門家のところまで歩み寄らないと話はできない。逆は無理だから。もちろんここでは綾波さんが専門家、早秋さんが非専門家ということで。


で、綾波さんは言います。根拠を示せ、と。それに対して早秋さんは丸山さんの本をあげ、そこに出ているデータについては正しいものとして扱う、という態度。


もちろん根拠を確認する、という綾波さんの態度は正しいのです。議論の精度を高めるために。でも、早秋さんには実際問題それは無理。原著論文など、一次資料へのアクセスは、専門家の義務であると共に、特権でもあるのです。今はウェブでかなりの論文が公開されていますが、それでも有料でしかアクセスできないものも多く、大学などの研究機関でなければ無理でしょう。また、たとえアクセスできたとして、それを読んで理解できるか、という問題もあります。


そのほかにも綾波さんが早秋さんに専門家の流儀を要求しているところが見られます。早秋さんがそれに応えることができれば立派ですが、たぶん無理でしょう。議論を続けるなら妥協して、綾波さんの理想より低い精度で議論を進めるしかないのです。


4. 信念と信念のぶつかり合い


2. と 3. で述べたように、今回の論戦は、科学的に精度の高い議論が成立しにくい条件の下で行われています。ですから、結局、信念と信念のぶつかり合いにならざるを得ません。信念、というのはある意味論理を越えたもの。理を持って説得というのがむずかしいのです。それでも十分な量の議論ができればお互いの合意にも達せましょうが、コメント欄の縛りがあるため、無理でしょう。


もし有意義な議論を続けたいなら、綾波さんは早秋さんにお願いして、どこか別の場所で、早秋さんの理解する宇宙線と温度の関係をまとまった形で示してもらう必要があるのではないでしょうか。でも、早秋さんがそんなことをすることもなさそうです。


私としては、ここは綾波さんに適当に切り上げていただいて、新たな温暖化懐疑論批判に臨んでいただきたいもの。早秋さんが丸山さんのことを信念を持って支持なさるのは、早秋さんの自己責任でなさっていること。綾波さんがとやかく言っても仕方ないことでしょう。


もちろん早秋さんに地球温暖化のことについて理解してもらえないのは残念なこと。でも、コメント欄でがんばって早秋さん一人を説得するよりも、良い記事を書いて多くの人に読んでもらうことのほうが、より楽しく、有意義なのではないでしょうか?


もちろん、この議論から科学的に有益なことが引き出せると考えていらっしゃるならかまわないのですが…。