温暖化とは全く関係ないことですが、

気になったので。


光より早いニュートリノが見つかった、という報道が出ました。すげー、でもさすがにそれは間違いでは?というのが私の感想。


で、それはいいのですが、山本弘さんが次の記事を書かれ、大変多くのブクマが集まっています。

「光より速いニュートリノ」をめぐる誤解 -- 山本弘のSF秘密基地BLOG
http://hirorin.otaden.jp/e212113.html


相対論が壊れたとか大騒ぎするな、という点には同意するのですが、このあたり、


光速超えるニュートリノ 「タイムマシン可能に」 専門家ら驚き「検証を」
http://sankei.jp.msn.com/science/news/110924/scn11092400300000-n1.htm


> 名古屋大などの国際研究グループが23日発表した、ニュートリノが光よりも速いという実験結果。光よりも速い物体が存在することになれば、アインシュタイン相対性理論で実現不可能とされた“タイムマシン”も可能になるかもしれない。これまでの物理学の常識を超えた結果に、専門家からは驚きとともに、徹底した検証を求める声があがっている。


>「現代の理論物理がよって立つアインシュタインの理論を覆す大変な結果だ。本当ならタイムマシンも可能になる」と東大の村山斉・数物連携宇宙研究機構長は驚きを隠さない。


 本当に村山斉という人がこんなことを言ったのかどうか疑問だ。記者がインタビューしたものの、回答の意味がよく分からなくて、いいかげんな要約をしたのではないかという気がひしひしとする。


 タキオンでタイムマシンはできません!


 なぜなら、すでに述べたように、タキオンは生まれた時から超光速なのだ。通常の物質(人間の体も含む)は光速を超えられない。つまり人間は過去には行けない。


これを受けて読売や産経を批判されている方がブクマに見られるのですが…。山本さんのこのくだり、間違いだと思います。


「村山斉という人」なんて書き方をされていますが、この村山斉という人は、東大という日本を代表する大学の数物連携宇宙研究機構という宇宙論を研究する組織の長たる、れっきとした物理学者でいらっしゃって、相対論を知り尽くした方です。まあ日本でこの人より俺の方が相対論に詳しいなんて言っちゃう人は、相当な天才か、相当ななんとかだろうというような、そんな感じ。


最近でもこちらの本を書かれています。大変評判の良い本でしたね。


宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)


ですから、コメントを求める先として彼を選んだマスコミの判断は正しく、それをそのまま書いた産経新聞は責められません。歪曲やまずい要約の可能性を指摘されていますが、それもないと思います。いえ、産経の科学記事には私も常々頭を抱えているのですが、これに関しては問題ないと思います。


もちろん、村山さんのいうことだから正しい、という訳ではなく、実際に特殊相対性理論の式に放り込んでやれば、超光速で動くものがあれば、タイムマシンが出来るという答えが出てきます。まあ、「タイムマシン」と言ってしまうといろいろ突っ込みどころもあるのかもしれませんが、少なくとも、未来から過去へと情報を送ることが原理的には可能になります。


相対論でのポイントは、相対速度を持つ二つの観測者の間では、速度だけではなく時間も変換される、ということなんですね。


今回、スイス、ジュネーブCERN で出てきたニュートリノが 730 km 離れたイタリアのグランサッソーで、発生から 0.0024 秒後に発見された、精密に経過時間をはかったところ、光の速度より 0.0025 % だけ早く飛んできたことになる、ということらしいです。


ちょっと大きいだけじゃん、と侮ることなかれ。これ、地球に固定されている私たちから見た速度です。もし、ニュートリノと同じ方向に、光速の 0.999975 倍のスピードで飛んでいる人がいたら。その人にとって、ジュネーブで放たれたニュートリノが、放たれたと「同時」にグランサッソーに到着していることになります。


「同時」。そうです。時間も変換されてしまう相対性理論では、普段は普遍であるとして疑ってかかることのない「同時」という概念さえも、影響を受けてしまうのです。


ローレンツ収縮のせいで、この人からはジュネーブとグランサッソーの距離は 5.1 km しかないように見えるのですが、それでも同時ということは、ニュートリノの速度が無限大、ということ。


そして、同じ方向に、光速の 0.999975 倍以上のスピード (でも光速よりは遅い) で飛んでいる人には、なんと、CERNニュートリノが作られる前に、そのニュートリノがグランサッソーに到着しているように見えるのです!時間をさかのぼっていますね〜。え、何がなにやらわからん?私もです。*1


「見える」と書きましたが、時間をさかのぼるというのは、かならずしも見かけだけのことではない。地球にいる自分とこのスピードでかっとんでいる人の間で超光速ニュートリノのキャッチボールを行えば、過去の自分に情報を与えることも原理的には可能。


超光速の粒子があると、因果律が破られることになります。つまり、原因があって結果がくるという当たり前のことが成り立たなくなり、まあ現代物理学をいろいろと変えなければなりません。


不思議なことに、光速を超えない物体しか存在しない宇宙では因果律の破れなんか気にする必要はありません。*2 ちょっとでも光速を超える物体が存在したときだけ、問題が起きるのです。現代物理学が大きく書き換えられるのは必定。もし今回の発見が本当ならば、それは重大な出来事なのです。


改めて書きます。産経新聞や読売新聞に、頭痛の素になるような科学記事がたびたび見られるのは確かです。ですが、少なくとも今回に関しては、両紙とも及第点の仕事をしています。村山さんはきちんとした学者ですし、コメントを求める相手としても適切で、本文中に紹介されたコメントも歪曲されたようには思えない。


ですから、これを持って両新聞を批判することのないようにして頂きたいと思います。


一方で、これまで私の読んだ範囲で、山本さんの書かれることはほとんどの場合信用できます。温暖化に関しても発言されていて、大変ありがたく思っています。ですから、今回は単なる勇み足ではないでしょうか。この記事も、タイムマシンのくだり以外は同意です。特に、


科学の世界では間違った発見なんて山ほどある。今回のニュースもそうしたもののひとつかもしれない。浮かれると後でがっかりするかもしれないので、冷静に続報を待ちたいと思う。


本当にそう思います。


これが事実なら大変なことがおきているわけです。ただ、何かの間違えである可能性は高い。もっと事実が積み上がるのを待ちましょう。


一つの定説に反する観測を持ち出して、あたかも定説がひっくり返されたようにはやし立てる、温暖化懐疑論にはそんな人が多くてうんざりします。相対論界隈も同じなのではないでしょうか。


ですから、私には、山本さんのお気持ちはよーくわかるのです。勇み足だってしちゃいますよ。<追記> 相対性理論なんて久しぶりで、さび付いた頭にはちょっとつらい。計算間違いがあるかもしれません、私こそ勇み足の可能性があります。後日検算するつもりですが、間違いがあれば指摘をして頂ければ幸いです。

*1:この超光速ニュートリノと一緒に飛んでいる人が感じる時間のながれはどうなのか、進んでいるのか、それとも、戻っているのか、という疑問を持たれた方。答えは、「虚数時間が流れている」です。申し訳ありません、回答があさっての方向で (複素平面的に)

*2:特殊相対論の範囲では。一般相対論が入ってくると私にはもう何がなにやら。