温暖化懐疑論者のみんな、騒ごうぜ!

待ちに待った CLOUD 実験の結果が、Nature に発表されました。わー、どんどんどんどん、ひゅーひゅー、ぱふぱふ


CLOUD 実験とは、スベンスマルク説の検証として話題の実験です。


宇宙から降り注ぐ宇宙線が雲の出来方に影響を与え、ひいては地球の気候に影響する。それがスベンスマルク説。温暖化懐疑論者の間では、これこそが地球温暖化の真の原因だと人気が高い。このあたりについては、以前書いたことがあるので、そちらを見て下さい。


みんな大好きスベンスマルク -- 気持ち^1
http://blog95.fc2.com/onkimo/?tag=%B5%AD%BB%F6:%A4%DF%A4%F3%A4%CA%C2%E7%B9%A5%A4%AD%A5%B9%A5%D9%A5%F3%A5%B9%A5%DE%A5%EB%A5%AF


で、論文が Nature に発表されました。まあ、これがなんと言うか…。いえ、決して変な論文ではないのです。ただ、スベンスマルク説について知りたい私からすると、なんともいわくいいがたい。


論文はこちら

Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation -- Nature
http://www.nature.com/nature/journal/v476/n7361/full/nature10343.html


論文の解説記事はこちら

Cloud formation may be linked to cosmic rays -- Nature
http://www.nature.com/news/2011/110824/full/news.2011.504.html

(いずれも英文です)


とりあえず、要旨にどんなことが書いてあるか、訳してみましょう。そこそこ文章をなぞっていますが、直訳ではないので、こんな感じのことが書いてある、程度に読んでください。


大気中のエアロゾルは、雲による太陽光の反射率を変えたり、雲の寿命を変えたり、対流システムの強さを変えたりする。だから地球の気候に大きな影響を与えているんだ。雲は核となる粒子のまわりに水蒸気が凝結して生れる雲粒からできているんだけど、地球上の雲粒の核のうち、ほぼ半分が空気中の微量気体が凝結することによって出来た粒子だと考えられている。核を作る気体のなかで最も有力なのは硫酸だ。これまでにもいろいろと研究されてはいるんだけど、空気中の硫酸が凝結して粒子になり、それが雲の核になれるほどの大きさに成長していく過程というものはまだまだよくわかっていない。銀河宇宙線アンモニアの役割を含めて、ね。そのあたりのことを解明するため、CERN で CLOUD と名付けられた実験が行われている。その結果をお見せしよう。CLOUD 最初の結果だよ ! 判ったこと。アンモニアが空気中に 1 兆分の 100 くらい含まれていると、硫酸が凝結して粒子を作る率を 100 から 1000 倍にも増やすんだ。硫酸だけでは粒子が壊れやすくって、なかなか大きくなれない。でも、アンモニアがあると、粒子を壊れにくくする効果がある。粒子の成長を時間を追ってみてみると、硫酸粒子にアンモニア分子が一つくっつくたびに、粒子に含まれる硫酸分子の数が増えていく。つまり、粒子がアンモニア分子を一つつかまえるたびに、段階的に粒子の大きさが増えていくんだ。一方、銀河宇宙線が作るイオンの効果についても結果がある。地上付近に存在するの銀河宇宙線起源のイオンの量だと、イオンが無い場合にくらべ、粒子ができる率を 2 から 10 数倍にする効果がある。ただし、上限があって、銀河宇宙線がイオンを作りだす率以上にはならないんだけどね。イオンが核を形成する効果は、対流圏の中ほどの高度では重要になる可能性があるけれども、下の方では無視できる程度の効果しか生みださない。アンモニアやイオンのおかげで粒子が生みだされる数が増えるのだけど、それでもやっぱりまだまだ空気中で生み出されている数は説明できないんだ。


勝手に言葉を補ったり、省略したりしています。標準的な訳語を使っているわけでもありませんし、まちがいがあるかもしれません。納得できない方は、ぜひとも英語に挑戦してみてください。なお、この文章だけ読んで理解できなかった方、そんなにがっかりしないでください。わかりにくいのは私の訳が悪いせいと、短い論文の要旨だからいろんなことが省略されまくっているせいです。


さて、要旨によると、銀河宇宙線によるイオンのおかげで核の作られる量が 2 から 10 数倍に増えたとあります。温暖化懐疑論者としては、ここを強調してあとは無視することで、この論文でスベンスマルク説が証明されたとしてしまいたいところですが、はたして、それでいいのかどうか?


本文を読んでみたのですが、あんまり銀河宇宙線について書かれていませんでしたね。アンモニアについて多く論じられていました。アンモニアや、それに類する分子が触媒になって、硫酸粒子の成長を促すのだそうです。で、銀河宇宙線が効く可能性があるのは、大気の中でも、冷たくて、触媒となるガスの少ない特殊な状況だろう、と。そのようなところでできた硫酸粒子、冷たいところということで、上空ということになりますが、そうした硫酸粒子が降下していって、海洋上空の比較的清浄な空気中のエアロゾルの量に影響を与えるかもしれない、と書いてありました。これはスベンスマルク説へのつなぎかな、と思います。スベンスマルクは過去に、銀河宇宙線が下層の雲の量に影響を与えているという結果を衛星観測から導いているので。


よくよくよめばスベンスマルクについて何かほのめかしている部分もあるのですが、とにかく、筆者たちはスベンスマルク説を証明したなんて言っていません。そもそも、スベンスマルクについてほとんど触れていない。論文を引用してはいますが、最初の方にちょこっと書いているだけ。


彼らはちゃんとわかっているのです。この論文が、スベンスマルク説の証明にならない、それどころか、あんまり関係が無いことを。


とはいえ、これはまだ preliminary な、つまり、とりあえず報告してみました、というレベルの段階。私のような吹けば飛ぶよな研究者が preliminary な結果をNature に投稿してもばかにされるだけですが、CLOUD のような重要な実験の結果は、すくなくとも何らかの結果が出たら、早急に発表されるべきです。この論文は「とりあえずこんなんでましたけど」という位置付けで、CLOUD グループとしても、まだまだ最終結果には程遠いという認識のはず。


それにしても、ちょっとぼやけた感じの論文だなと思いました。この論文、大事なのはアンモニアについてなのです。だとしたら、宇宙線の話については最小限で良いはず。ですが、CERN加速器を使った CLOUD 実験の最初の論文でそれは悲しい。本来ならイオンビームでドラスティックな変化が出たと書きたいところ。逆にアンモニアの記述は最小限に抑えて、どどーんと銀河宇宙線を打ち出したい。そのあたりの葛藤が影響しているのでしょう。


一つ気になるところを見つけました。この論文、

Received 9 September 2010; accepted 24 June 2011.

だそうです。つまり、Nature の編集部に論文が届いたのは 2010 年 9 月 9 日。そこから審査員に論文を送ってコメントを求め、筆者がその修正をしたりなんだりを繰り返し、最終的に掲載が決ったのが 2011 年 6 月 24 日。いろいろあったのだろうなと妄想してしまいます。まあ、私の勝手な思い込みかもしれませんが。


以下、妄想。著者たち、最初は宇宙線を中心に書いていたのでしょう。銀河宇宙線を当て、高エネルギー粒子を当てることによって粒子が増えたよ、と。スベンスマルク説の証明はできないまでも、それなりに銀河宇宙線の気候における重要性を示したかった。でも、査読者の中に、平均的な気候学者がいて、じゃあどんだけ気候に影響があるんだよ! 定量的になにかわかるんか! この結果ならどう見てもアンモニアの方が大事だろ! とコメントした。それなりの説明を用意したのだけど、査読者は納得しない。どうしても論文を掲載したい Nature 編集部は落しどころをさぐって、それではアンモニアのところを強調しましょう、それなら Nature に載せるには十分でしょう、と査読者を説得して、めでたく掲載の運びとなったけど、途中の紆余曲折の影響で、CLOUD の結果としてはちょっとわかりにくいものになってしまった。


ははは、全くの邪推です。


まあ、いろいろ書いてきましたが、とにかく、CLOUD 実験の論文が Nature に掲載されました。


日本の温暖化懐疑論者のみなさま、大喜びしようではないですか。温暖化懐疑論の本命、スベンスマルク説をサポートするはずの CLOUD 実験の結果が Nature に掲載されたのです。海外ではこの論文をもって「スベンスマルク説が証明された!!!」と喜んでいる方もいらっしゃいます。日本でも、是非とも大騒ぎしていただきたいものです。


そして、もう少し落ち着いた懐疑論者の方々へ。この論文は、銀河宇宙線について書かれていない、内容を書きかえられているに違いない、IPCC 側の妨害のせいだ! と、気候学者を糾弾する材料に使うのがおすすめです。


正直、この論文でスベンスマルク説が証明された、というのは難しい。


でも、それで良いではないですか。だいたい、CLOUD の結果が出そろったら、スベンスマルク説が否定されてしまうかもしれません。肯定的な結果が出た場合でさえ、それをスベンスマルク説につなげようとする過程で、IPCC 側の論者から攻撃を受ける可能性が高い。


それよりも、あやふやな状況がさらに続いたほうが、実は懐疑論には好都合。これまで通り、スベンスマルク説を活用できます。うかつに証明されたなんて主張する必要ありません。賞味期限が伸びたのだから、有効活用しましょう。


もちろん、懐疑論に飛びつく人のリテラシーを考えると、Nature の元論文をチェックしようなんて人はほとんどいないでしょう。それを見越して、「スベンスマルク説が証明された!」と煽るのは良い考えです。ただ、「証明された」とするとなんか馬鹿みたいなので、その辺は後でいかようにでもごまかせるような言い回しを考えましょう。


そして、私のように遠くから温暖化懐疑論をウォッチしている方々。CLOUD 実験の続報を待ちましょう。今回の論文はスベンスマルク説について何も語っていないに等しいのですが、結果が出揃ってくるにしたがって、論じるべきことも増えてくるはずです。


なにより、新しい実験の結果を見るのは興味深い。科学としておもしろいではないですか。


CLOUD 実験はまだまだ続きます。楽しみに待とうではないですか。


もちろん、CLOUD 実験が成功して、データが出揃ってくるころには懐疑論の人達は飽きて忘れてしまっているでしょうが。