ドイツ気象局 (DWD) の放射性物質拡散予測が

終わるみたいですね。こちらの togetter で知りました。


ドイツ気象局への放射性物質拡散予測の存続希望の話し合いとその結果 -- togetter
http://togetter.com/li/169362


ドイツの大学で教鞭を執っていらっしゃる take2602 さんが、日本人が拡散予測を頼りにしていることを DWD に伝えに行きました。DWD の研究者は研究成果が役立ったことに喜んだものの、予測はやめるそうです。


DWD の予測についてはこちらについては、以前一度取り上げたことが。

zakzak の記事を見て
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20110412/1302614301


さて、この一連の tweet について思うことはいくつもあるのですが、似たようなことはほかの記事でもいろいろ書いているので 2 点だけ。*1


一つ目。まずはこちらのツイートについて。

(7)放射性物質放出量減少と、混乱を起こす事を兼ねて考えると、ここでやめるのが妥当との判断だとのことです。そして最後の理由として、これ以上DWDが行うと、パートナーとしての日本との関係が悪化する事を懸念していると言っている担当者もいました。但し日本からの圧力は無かったとの事です。


なぜ DWD は予測をやめるのか。放射性物質が出ていないと思われる現状で、誰の得にもならない計算をする必要もないだろう、という判断が一番大きいわけです。まあ、だれにも役に立たないと DWD が判断したわけですね。


で、それはいいとして、次の文が気になります。"パートナーとしての日本との関係が悪化する事を懸念していると言っている担当者もいました。但し日本からの圧力は無かったとの事です。"


これ、本当に日本からの圧力はなかったのかと疑問視する人も多そうですね。


じつはこの、気象のデータや予測というのは、その、微妙なんですよね。なんというか、国家の主権が微妙に絡んだ問題でもあるので。それが原子力と結びついている。なんだか、国家間のややこしい話がありそうですしね。


ちょっと話が変わります。だれも何も言わないので不思議に思っているのですが *2、事故の際、アメリカのエネルギー省 (DOE) が福島上空に飛行機を飛ばしてリモートセンシングにより放射性物質の測定を行いました。これが公開されたおかげで部外者の私でも早い段階で放射性物質の拡散の様子を把握できたわけですが…


それでは逆に、アメリカの原発事故の時、文科省原発上空に飛行機を飛ばすことができるか、そのデータをウェブで日々公表できるか?


まあ無理ですよね。アメリカの代わりにドイツ、中国、韓国、ロシアなどに当てはめて考えてみてください。日本が飛行機を飛ばせるか?おもしろい思考実験だと思います。


それほど、原子力に関する情報は微妙な問題なのです。気象に関してもそう。他国の領土に機器を展開したり、領海に船を派遣したりしての観測にあたっては、相手の国との間でいろいろと面倒くさいことが起こります。まあ、あちらの国の機関との共同研究として行えばなんとかなるのですが、それでもややこしい。


あ、今回は観測ではなくてシミュレーションの話でしたね。DWD のシミュレーションに戻りましょう。


今回の件、日本とドイツが逆の立場だったらどうか。ドイツで事故が起こったら何が起こるのか。


DWD が政府の要請で拡散予測を公開しない可能性さえあると私は思います。国と国がひしめき合っているヨーロッパ。たとえば、炉内の放射性物質が漏れるベントが必要になったら。DWD の拡散予想が示された上でベントをするのはシビアな外交問題に発展しそう。それでも、その予想が絶対に正しいなら生データを公開するメリットもあるでしょうが、当たらないかもしれないのにわざわざ話をややこしくしたいとは思わないのでは。シミュレーションが行われるのは確かですし、何らかの予測は公表されると思います。でも、生のシミュレーション結果は一般の人の目に直接触れないようにされそうです。*3


そんなとき、日本が WSPEEDI 放射性物質拡散*4 の予測を垂れ流していたら、ドイツは、DWD は、どう思うか?まあ、地球の裏側の気象官署に直接文句を言ってくることはないでしょうけどね。ただ、日本の機関は、かなり DWD の、そしてドイツ政府のことをおもんぱかって、軽々しい誤解を与えないようなやり方になると思います。


tweet には "パートナーとしての日本との関係が悪化する事を懸念" と書いてあります。世界の気象官署の職員というのは、なんていいますか、連帯感があるんですね。国際的な枠組みで顔を合わせる。データのやりとりなどで協力関係にあるわけですし、仕事が似ていれば悩みも似ている、今回の件で言えば、シミュレーション結果の信頼性とその公表の仕方や公表の際の問題点についても見解をある程度共有している。気象庁IAEA にだけ予想を出したことでたたかれているのも、知っているかもしれません。


つまり、相手がいやがりそうなことがわかってしまう。DWD はその辺も考えて中止の判断をしたのでしょう。これは見方によっては圧力になるのかな?でも、圧力という単語はあんまりふさわしくないと思います。


まあ、私は SPEEDI に関わったわけでも気象庁の職員でもないので、その辺の機微はわからん。想像で語っていますが。


まとまらなくなってしまいましたが放っておいて、二点目に移りましょう。こちらの tweet

(16)やはり我々は日本政府をもっと動かさなければいけないと思いました。情報公開をさせなくてはいけないと思います。政府を動かす事に力を結集させなくては行けないと思いました。批判だけではなく、どうにかして変えて行く事を建設的に考えないと行けないと思っています。以上です。


個人的には、政府への働きかけはやってほしい。どう変えていくか、建設的な考え、提案は大歓迎です。


そのときに忘れてほしくない点があります。それは、「検証」です。


今回の騒ぎを見ていて、DWD の結果についてほとんど検証がなされていないのが気になりました。私が見つけた検証らしきものは唯一、こちらですかね。


31日は関東南部まで…ドイツ気象局が放射性物質拡散予想 -- zakzak
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20110329/dms1103291705021-n1.htm

独気象局は21日午後9時にも関東地方への拡散を予想した。東京都新宿区の放射線測定状況は19日午前8時が0・047マイクロシーベルトだったのが22日午前6時台では0・131マイクロシーベルトと上昇しており、精度もなかなかのようだ。


…。まあ、なんとも科学的な検証ですな。


あれだけもてはやされているにもかかわらず、ほとんど検証されていない。たぶん、日本人的な奥ゆかしさで、親切にも予測を提供してくれているドイツの人たちに失礼がないようにと思っているのだと思います。


でも、それでいいのですか?この命がけの状況で???*5


私は、検証されていない手段で自分の身を放射能から守ろうとは思いません。*6 国も同じであってほしいですね。その手段が国民を守るために本当に役立つのか、見定めてほしい。ウェブを見ていると、おぼれる者が藁でも水草でもながれてきたうんこでもなんでもつかむような議論が少なからず見られるのですが、どんな手段でも良いわけではない。


建設的な議論は、現存する予測モデルの検証を土台にする必要があるのです。


もちろん、今後、国が、そして、気象学会などに属する領域気象の研究者たちが、 SPEEDI の結果を詳細に見ていくことになるでしょう。でも、批判する側、そして、それを建設的なものにしようと考えている人たちこそ、率先して、DWD の結果も含めて検証してほしい。


take2602 さんはドイツの大学で教える科学者とのこと。DWD の結果を検証するには申し分ない能力をお持ちのことでしょう。意外に大変な作業ではあるのですが、一人でやる必要はありません。問題があると考える人たちの知恵を集めて十二分に検証し、建設的な提案につなげてほしい。信頼できる気象学者を見つけて意見を求めるのもよいでしょう。DWD を訪問した take2602 さんの行動力があれば、そんなことは何でもないはず。


検証することにより、なぜ SPEEDI が、そして気象庁が結果を発表しなかったのか、当事者たちの気持ちがわかると思うのです。別に気持ちを尊重しろなんて言いません。ただ、気持ちを踏まえた批判が出来たなら。それこそが建設的な批判だと思うのです。


期待しています。

*1:いえ、この 2 点についてもほかで書いていないでもないですが

*2:私が知らないだけで誰かが言っていると思いますが

*3:危機がある程度落ち着けば公開するでしょう。今のような形で、ね。

*4:SPEEDI の全地球版。DWD の予測に対応しています
<8/4 追記>WSPEEDI が SPEEDI の全地球版という説明は間違いみたいですね。すくなくとも、DWD の予測に対応というのは間違いみたい。

*5:まあ、本当は命がけではないことをわかっていらっしゃるのかもしれませんが

*6:たとえば、考えてみて下さい。あなた、放射性物質を浴びたかもしれないときに、コメのとぎ汁乳酸菌のような手段を使って放射能を除去したいと思いますか?…、いえ、使いたいと思う方もいらっしゃるかもしれませんね、失礼しました。お気を悪くされた方、すみません。
コメのとぎ汁乳酸菌についてはこちらを参照
http://www.j-cast.com/2011/07/28102428.html