イアン・スチュアートという数学者が書いた、

こちらの本を読んでいます。


数学の秘密の本棚


イアン・スチュアートは私の大好きな数学者です。もちろん、私は数学者ではないので彼の数学界での活躍は知りません。ですが、彼の書いた本は、数学に疎い私にも大変におもしろい。


こちらの本も、私の愛読書です。


数学の冒険 (科学選書)

ありゃ、画像ないの?

数学の冒険 (科学選書)


あと、以前、日経サイエンスでコラムを書かれていたはずです。おもしろかったなー。その時取り上げられていたテーマに今読んでいる本でも再会できて、幸せな気持ち。


で、四色問題です。ご存知ですか?四色問題


詳しくは、先に取り上げた本を読んでください。四色問題とは、地図を難色何色で塗り分けられるか、という問題です。少なくとも 4 色必要なのは、次の図を見れば当たり前。

おわっっ、図が大きくなり杉でびっくり。でも、まあ、いっか。


さて、どんな地図でも 4 色で塗り分けられるのか? 5 色以上必要な地図はないのか?簡単そうに見えてこれが意外に手強かった。問題が定式化されたのは 1852 年なのですが、長い間未解決の問題としていろいろな人の頭を悩ませます *1


それでも、数学者達は努力を続け、もしとあるいくつかの地図が 4 色で塗り分けられたら、全ての地図は 4 色で塗り分けられる、ということを突き止めました。で、解決したのは 1976 年。


ところが、解決してめでたしめでたしではなかったのです。上でいくつかの地図が、と書きましたが、その地図の量が膨大で、人間が一生かかっても調べられる量じゃなかった。そこで、コンピュータを使って解いたわけです。


コンピュータを使ってしか解けない場合、本当に証明されると言えるのか?当時、議論になったようですね。でも、今では 4 色問題は証明されていないと思う人は大変少ないのではないでしょうか。コンピュータに頼らない証明は今もって存在しないのですが。


で、ここで温暖化の話になります。


温暖化の話では、コンピュータが未来の予測に使われます。


いえ、決して 4 色問題でコンピュータが証明に使われたわけだから、温暖化予測でコンピュータが使われることが正当化されると言いたいわけではありません。二つの問題には、論理の厳密性に大きな差がありますからね。


そうではなくて、コンピュータと研究者の関わり方です。


イアン・スチュアートの本にはこんな記述がありました。


…でも、当時のコンピュータでは 10,000 個の配置を含む不可避集合を片付けるのに 100 年はかかる。今のコンピュータなら数時間で片がつくけれど、ハーケンは当時使えたもので勝負するしかなかったので、理論的な方法に磨きをかけて、扱える程度にまで計算量を減らすしかなかった。

ハーケンはケネス・アッペルと組んで、コンピュータと「対話」を始めた。ハーケンがその問題を攻略する新しい方法を考え、コンピュータはせっせと計算して、その方法がうまくいきそうかどうかを調べた。…略…。二人は考えついた集合をコンピュータに教え、コンピュータはその配置を一つ一つテストして、それが不可避かどうかを調べた。テストをパスできない配置があったら、それを取り除いて代わりに別の配置を入れ、コンピュータは再び火薬かどうかをテストする。…略…

1976 年 6 月、答えが出た。コンピュータがその配置の集合は不可避集合です、と知らせてきたのだ。…略


これ、情景が目に浮かぶんですよねー。いえ、1976 年当時のコンピュータがどんなだったのかは知らないんですが、コンピュータとの「対話」という作業。


多くの人にはちんぷんかんぷんかも知れない。ワードやエクセルを使うのも確かにコンピュータとの対話だけど、それよりももっと違う何かが、この 4 色問題を解く際にはなされていた。


コンピュータは何か考えるわけでもないし、心を持っているわけではない。それなのに、この 4 色問題を解く際には「対話」と書いてしまいたくなるような何かが起きていたのです。


私、そして、私に限らず気候の研究者はコンピュータの前に座っていることが多いです。そして、全てとは言いません。でも、少なくない数の科学者が、イアン・スチュアートの本にあったのと似た意味で、コンピュータと「対話」しているのではないかと思います。そんな人達にはこの 4 色問題の記述を読んで、なにか心に響くものがあるのではないかと想像します。


イアン・スチュアートの本を読んで、そんなことを思いました。

*1:このあたりの経過は、「数学の冒険」の方が詳しいです。