「マーケットの馬車馬」という

ブログを、以前愛読していました。最近更新されていないのがまことに残念です。<追記> いま見てみたら更新されていました。昨年 8 月以来の更新です。びっくり。上の文章は更新に気づかずに書いていました。


経済のやや専門的な話が経済的な素養がない人でも取っつきやすい形で書いてあって、おもしろい。経済だけではなく、政治や国際情勢、はてはブログの書き方までカバーしてあるのですが、一貫して経済学的な手法を使って論じられていて、なんというか刺激的です。


今日取り上げるのはこちらの記事。まあ、この記事はあんまり経済学っぽくはないですが。


右翼と左翼、論理と感情
http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2004/08/post_1.html


やや右寄りの思想を持つ馬車馬さん、以前は自分の意見を披露するたびに苦笑いをされていたのが、最近では世の中の右傾化が進み自分が必ずしも右よりといえなくなってきたことにとまどっています。本当なら歓迎すべきことなのでしょうが、でも、

ただ、自分が右よりなくせに、昨今の世の中の右傾化には納得できないところが多い。感情の成分が多すぎるような気がするのだ。

これに続けて、右翼と左翼について論考しています。


左翼の根底にはフランス革命以来の平等・博愛といった価値観がある。本当はロジックが伴ってこそ主張として完成するのだが、価値観だけでも十分に見栄えがする。左翼っぽい話をするときには、だから、論理は必要がない。


一方、右翼というのは、フランスの左翼革命勢力に対抗する保守派一般を指していた。

フランス革命の当時から、保守派というのは革命に燃える若人たちに「そんなこと言っても、世の中ってのは複雑でそんなにうまくいかないんだよ」「平等だけを追求しても世の中おかしくなるよ」って感じに、彼らの理想に対するアンチテーゼを提供してきた人たちだ。

それで、左翼に比べて価値観が曖昧である。そこからロジックをはぎ取ったら、エゴイズムと現状へのあきらめくらいしか残らないので、格好が悪い、と。

だから、右寄りな主張をするときには十分な理論武装が欠かせない。世の中の仕組みを学び、左翼の人たちが抱く理想をある程度までは認めながら、現実的な落しどころを探る姿勢があって初めて、我々は胸を張って議論することが出来る。右翼の感情論は見栄えが悪いことこの上ないのだ。


そして、近年の日本の右傾化が理論武装されていないことを指摘しています。


まあ、このブログでは政治のことを語るつもりはないので、日本が右傾化しているかどうかなんてどうでも良いのですが、温暖化のことについて考えてしまいました。


最近まで、地球温暖化論は馬車馬さんの言う左翼の言説だったと思います。


いえ、温暖化論を唱えていた人たちが左翼だったと言うつもりはありません。そうではなく、CO2 が増加すると地球は温暖化する、人間が地球を変えようとしているのだ、その結果、海水面は上がり、多くの生物は絶滅に瀕し、将来の世代は危険にさらされる、化石燃料を使うのはやめるべきだ、という、見栄えのする価値観をベースに語ることができる、かっこいい言説だった、ということです。


そして、その価値観を背景に、現代社会を批判する立場に立つことができたのも、格好よさを増していたことを指摘しておきたい。


格好よかったので、温暖化論を語るだけで拍手してもらえたし、相手を黙らせることができた。そこにはロジックなど必要なかったわけです。


いま、温暖化論の格好よさは失われつつあると思います。


理由のひとつは、手垢の付いた正論になってしまったこと。どんな格好いい言説でも、何度も繰り返されれば人間ですから飽きてしまいます。


そのほかには、温暖化対策に社会全体が乗り出し始めたこと。もちろん、これは必要なことであり、望ましいことなのです。ここまで温暖化論をひろめた先人の科学者や環境運動家の努力にはわたしは敬意を表したい。ただ、それによって、温暖化論は左翼の言説ではなく、体制側の言説になってしまい、反体制の格好よさは失われました。


また、人間同士の利害対立もはらんだおかげで以前のように純粋に価値観ベースでは語ることができなくなってきました。


自分の語ることが格好よくなくなるのはあまりうれしいことではありませんが、でも、悪いことではないんだろうな、と思います。ファッションとして温暖化論が語られ得た時よりも、わたしのようなブログ書きにとっては、実はいい時代なのかな、という感じがしているのです。


まだもう少し語り足りないので、続きます。


あ、この記事は一応こちらの記事の続きです。


佐藤亜紀さんの本を
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100323/1269334376