NOAA 衛星データについて、

harusantafe さん、nytola さんと同一人物だそうですが、twitter で問題を指摘していました。
http://twitter.com/harusantafe/status/20922927635


元ネタはこちらだそうです。
Official: Satellite Failure Means Decade of Global Warming Data Doubtful -- Climate Change Fraud
http://www.climatechangefraud.com/climate-reports/7491-official-satellite-failure-means-decade-of-global-warming-data-doubtful


NOAA の衛星、 NOAA 16 のデータに 622 F (322 ℃)なんていうあり得ない高温があった。その他にも変な温度がいっぱい見られる。こんなデータが使われいたら、そりゃ地球の温度が不自然に上がるだろう。温暖化なんて信用できない。


これに関してはすでに反論があって、

Of satellites and temperatures -- Skeptical Science
http://www.skepticalscience.com/of-satellites-and-temperatures.html


さて、私がこれを聞いてどう感じたか。正直、ちょっと笑ってしまいました。


まず、衛星データについて。問題となった NOAA 16 は AVHRR という測器をはじめ、各種のセンサーを積んでいます。温度を測る上で中心となるのは Advanced Very High Resolution Radiometer (AVHRR) かな。英語の Wikipedia を参考にしてください。海の温度分布が出てるよね。

Advanced Very High Resolution Radiometer -- Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/AVHRR


AVHRR は赤外線の強さを測っています。この世の、ある程度以上の大きさのあるものは、温度に応じた赤外線を出していると思って良くて、しかも、温度が高いほど多くの赤外線を出すわけです。だから、原理的には赤外線センサーを向けてやれば、温度がわかる。AVHRR に積んでいるセンサーを地表に向けてやれば温度がわかるはず。


でもね、いろいろややこしいんです。同じ温度でも、表面の材質によって出てくる赤外線は違います。雲がかかっていたら、雲からの赤外線を見ることになってしまいます。雲がない場合でも、大気が赤外線を発しているわけです。温室効果は大気から発せられる赤外線で起こされるわけですが、べつに赤外線の進む向きは下向きに限定されているわけでもないですからね。


それだけではありません。センサーだって完璧なものではないので、測定誤差があります。また、宇宙は厳しい環境の場所ですから、時が経つにつれてセンサーは劣化していきます。


地表からの赤外線が遮られたり、逆にその途中にある物質の赤外線が飛んできたりで、AVHRRにとどく赤外線にはいろんなものが混ざっているわけです。そして、センサー自体も劣化したりする。そんな測器から得られたデータから、どうやって温度をはじき出すのか???


衛星を運用しているところでは、いろいろなことをやっているわけです。複数の波長の赤外線で観測したり、途中の空気からの寄与を推定して取り除いてみたり。そうやって得られた結果は、地上での測定と比較されます。常にチェックされているわけです。


とはいえ、そうはいっても全ての状況を完璧に取り扱えるわけではない。とんでもない誤差が混じることもある。今回の NOAA の言い訳は、雲の端のところで問題が起きるんだよ、ということでしたが、雲があるかないかで AVHRR に飛び込んでくる赤外線は大きく変わるわけですから、自動化されたアルゴリズムで雲がない場所を雲があると錯覚して計算したら、すごい高温が出ても、まあ不思議ではありません。


自動化されたアルゴリズムを通過したデータは、その後いろんな段階を踏んでチェックされて加工され、天気予報などに用いられます。322 ℃なんていうあり得ない高温があったら、天気予報はぶっ飛んじゃいますねwww。でも、天気予報みたいなことは全く目に入らないのが温暖化バカ *1


こんな温度の誤差は普通に起こっていることなんですよ。どの段階のデータを見るかによりますが、人の手があんまり入っていない、自動的に配信されるデータは得てして大きな間違いがあるもので、私は驚きません。


わたしの感覚としては、ワープロの誤変換に遭遇したときに近いですかね。「良く出来た内容です」→「欲で汚いようです」みたいな、くすっと笑いながらつっこみを入れたい感じ。ありえねー、と思いながらも何となく間違えた機械に対して親しみみたいなものを感じてしまう。


こちらもそう。322 ℃ って、オーブンよりも温度高いよ、住んでる人が丸焼けじゃん、みたいな。無機質な衛星データとデータ解析アルゴリズムに、"ばか (はーと)" と言いたくなるような、そこはかとないかわいげを感じてしまいます。あれ、私って変?


NOAA の衛星に限らず、リモートセンシングのデータに、いや、リモートセンシングのデータに限らず、全ての観測データについて、人の手があまり入っていない段階で、変な値が紛れ込んでいても、私は驚きません。


今回の事件、nytola さんによると、サテライトゲートと名付けられてアメリカ中で大スキャンダルになっていてマスコミが大々的に報じていて NOAA 大ピンチだそうです。大変です。事件のせいでアメリカでは温暖化なんてだれも信じなくなったのかもしれませんね。


だけど、私にとっては、そして多くの気候学の研究者にとっても、今回の事件は別に驚きでもなんでもありませんでした。


でも、観測という活動がいかに難しく、いかに泥臭い活動か、ということをわかっていない人にとっては衝撃だったのかも知れません。


仕方ないことでしょう。NOAA などの機関はあんまり生データに近い段階のデータを公開していません。よっぽど詳しい人じゃないと、見ても、なんのことやらわからないしね。出回るのはきれいに加工された結果で、変な値は取り除かれています。


でも、一般の人は加工されていることを知らない。衛星からのデータがそのまま公開されていると思う。だから、たまに加工されていない結果を見たら、なれていない人は驚くことでしょう。


nytola さんもおどろいた一人。物理の研究者だということですが、たぶん、普段は実験機械や測定器からはじき出される数値を見れば、なにも考えることなく研究結果が出てしまう世界の方だったのでしょう。変な温度が混じっているから信用できないなんて、私にしてみれば IME ソフトがたまにおもしろ変換をすることがあるから使わない、といっているようなもので、研究者にしてはナイーブだなと思いましたが、まあ、文化の違いでしょう。


さて、上でデータの加工と書きましたが、これがくせ者です。一般的に加工方法はいろんなノウハウのかたまりで、なぜそんなことをするのかすんなりと説明できない操作がすくなからず含まれています。


え、そんな加工を施されたデータ、信用できるか?温暖化だってでっち上げ?


まあ、素直に信用しないのは正しい判断だと思います。


ただ、気候学者は、データが信用できるかどうかは、どのように加工されたかよりも、提供された、整えられたデータを見て判断します。物理的におかしくないか、他のデータと比べてどうかを検討し、自分の見たい現象がどのように表現されているかを調べて、そのデータを使うか否かを判断する。データ全てを信用できるかできないかに区別するわけではなく、信用できる部分、使い物にならない部分、グレーな部分にわけて、対応していく。


加工されているから信用しない、という態度を取るのは、かっこいい。でもそれでは何にもできないと思います。それよりも、完全には信用できないデータから何が言えるのかを考える方がより生産的なのです。


残念ながら、人間はあんまりきれいな世界には住んでいない。観測データもいろんなごみが混じっている。そこからどんなきれいなものを見つけ出してくるか。それが、多くの研究者に求められることなのです。


まあ、完全に自動化されていたら、人間が研究する必要なんてありませんからね。


最後に。今回の nytola さんが伝えた騒ぎ、温暖化バカの記事で述べてきたことに関係があります。NOAA のデータは天気予報で使われるのに、その観点を全く無視していること。温暖化について、いろいろな事実から積み上げられて導き出された結果なのに、この一点を指摘して否定しようとしていること。


この記事では、観測データに対して、あまりにもナイーブな反応をする人たちがいることを指摘しました。これも温暖化バカの皆様が持つ特徴の一つだと思います。


今後も温暖化バカ系の騒ぎは頻発すると思います。じっと観察してみてくださいね。


え、nytola さん???いえ、彼は温暖化バカじゃないですって。頭いい人ですから。

*1:この記事、温暖化バカについて書いた以前の二つの記事の続きです。
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100820/1282233048
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20100803/1280839795