またまた IPCC 叩かれていますね。

朝の NHK のニュースでやっていました。


Nikkei ecolomy でも既に取り上げられています。
http://eco.nikkei.co.jp/column/kanwaqdai/article.aspx?id=MMECzh000021012010


なにがおきたのか?十分な科学的根拠のない記述が見つかったのです。New Scientist (日本で言えば Newton のような、一般向けの科学雑誌です。良い雑誌ですが、学術誌ではない) に載った科学者の "憶測" を世界自然保護基金 (WWF) が取り上げ、それが IPCC 第二作業部会 (WG2) のレポートに掲載されてしまった。



で、IPCC WG2 のレポートを見てみました。この部分かな?間違いは。
第二作業部会の報告書の 493 ページです。


Glaciers in the Himalaya are receding faster than in any other part of the world (see Table 10.9) and, if the present rate continues, the likelihood of them disappearing by the year 2035 and perhaps sooner is very high if the Earth keeps warming at the current rate. Its total area will likely shrink from the present 500,000 to 100,000 km2 by the year 2035 (WWF, 2005).


つまり 2035 年までにヒマラヤの氷河が無くなる可能性がとても高い、と。そして、これが憶測に基づいた当てにならない事実だと言うことです。


背景などについてわかりやすいのは t0m0_tomo さんのページです。

IPCCが犯した3つのミス — 「ヒマラヤ氷河は2035年までに消滅」 -- 雑多な覚え書き
http://d.hatena.ne.jp/t0m0_tomo/20100121/1264078926


英語が読めて温暖化研究者の意見が知りたい方には RealClimate をおすすめします (わたしは英語が苦手なので、t0m0_tomo さんのページの方がわかりやすい)。

The IPCC is not infallible (shock!) -- RealClimate
http://www.realclimate.org/index.php/archives/2010/01/the-ipcc-is-not-infallible-shock/


<追記>
増田耕一さんも詳しい論評を書かれていました。さすがです。

ヒマラヤの氷河に関するIPCC第4次報告書のまちがい -- macroscope
http://d.hatena.ne.jp/masudako/20100125/1264421455

ヒマラヤの氷河に関するIPCC報告書のまちがい (つづき) -- macroscope
http://d.hatena.ne.jp/masudako/20100210/1265827496
<追記終わり>


さて、nikkei ecolomy の記事では、懐疑論者の伊藤公紀さんがコメントされています。

同部会で査読者を務めた横浜国立大学の伊藤公紀教授は「WWFの資料を引用したIPCC報告書の著者のレベルが低く、それを見抜けなかった査読者たちの責任でもある」と、IPCCの査読システムに問題があったことを認めている。


まあ、おっしゃるとおりですね。なぜか伊藤さんに言われるとくやしいですが。確かにレベルが低いとしか言えません。査読者の責任にも同意。ただ、査読者が誤りを見つけるのは難しかったのかなとは思います。realclimate によると、このあたりの文言はどうも査読の最終段階で紛れ込んだらしいので。執筆者の非の方が大きいかな。<追記>
よく考えたら、伊藤さんも WG2 レポートの査読に関わっているんだよね。こちらに名前が。

http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg2/ar4-wg2-app.pdf


また、RealClimate によると、WG2 には"物理"(physical science。物理気候学のことだと思います)の専門家の目があまり注がれていなかったらしいです。そりゃそうだよね。だいたい WG1 の方に参加しているだろうから。もっと分野の垣根を取り払ってお互いのやっていることに目を光らせる必要がありそうです。まあ、IPCC はそれなりにがんばっているとは思うのですが、まだ足りなかった。


WG1 はかなり"厳しい"ので、こういう問題はないと信じたいですが、どうかな?ちなみにヒマラヤの氷河について、WG1 の報告書にはあんまり記述がありませんでした。地球全体の氷河について触れたところでちょっと Himaraya って出てきたのと、氷河湖の決壊について触れていたぐらいかな。第 11 章、Regional Climate Projections にあるかなと思ったけど、Himaraya って検索しても見あたりませんでした。まあ、モデルの予測中心の章だから氷河については手薄なので当然かなとは思います。


Observations: Changes in Snow, Ice and Frozen Ground -- IPCC 第一作業部会報告書
http://ipcc-wg1.ucar.edu/wg1/Report/AR4WG1_Print_Ch04.pdf

Regional Climate Projections -- IPCC 第一作業部会報告書
http://ipcc-wg1.ucar.edu/wg1/Report/AR4WG1_Print_Ch11.pdf


WG2 のミスについて、IPCC は反省しています。

IPCC statement on the melting of Himalayan glaciers
http://www.ipcc.ch/pdf/presentations/himalaya-statement-20january2010.pdf


これからは、もっと厳しく根拠を追求するぞ、憶測や妄想を書き込むのは許さないぞ、と。


で、温暖化懐疑論について書いている onkimo として一言。根拠を追求する、というのは、簡単に言えば、記載される事実が、査読論文になっていてかつコミュニティからの信頼が得られている事実かどうか追求する *1、ということなわけです。あ、これは掲載されるための必要条件ね。これを満たしていたからといって必ず掲載される訳じゃない。


WWF のレポートが出典なんて明らかにおかしい。New Scientist に"しか"根拠をたどれない事実なんて、載せてはいけません。


ということで、たとえば赤祖父さんや槌田さん、丸山さんの、ホームページや一般書で展開されているような懐疑論が今後 IPCC のレポートに載ることはないんですね。


でも、そんな説が満載のレポートも見てみたいもの。懐疑論者のみなさま、是非まとめてみてください。

*1:まあ、コミュニティの信頼が得られている事実ならほぼ確実に査読論文になっているわけで、ここに書いた条件は冗長なのですが。