各所に微妙な波紋を投げかけている

climategate 事件ですが、finalvent さんが現在のまとめを極東ブログにアップされています。


クライメイトゲート事件って結局、何? -- 極東ブログ
http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2009/11/post-47ba.html


私は政治や経済には疎いのですが、finalvent さんの書かれていることについては興味深く読めました。田中宇さんの記事を読んでいるようなおもしろさがあります。(あ、田中宇さんの記事、といっても温暖化記事は除きます。わたしにとって、田中さんの温暖化記事はあまりにもあれなので)


なのですが。温暖化問題 "一言さん" の私としては、いろいろと言いたくなることがあって…。たとえば、このあたり


疑惑から起きた喧々囂々たる議論は、ホッケースティック論争と呼ばれている。ウィキペディアはこうまとめちゃっている(参照)。

しかしその気温変化を見積もるために用いられたデータの出典の記述が間違っており、またマンらが観測精度の誤差と考えた変化を修正して用いられていた。この出典表記の間違いや修正を「改竄」などとして批判する者があらわれ、スキャンダルとなった[1]。また、マンのデータに対して小氷期や中世の温暖期などによる気温変動が過小評価されているのではないかなどと数多くの批判や異論が論文となって発表されており、この一連の騒動をさして「ホッケースティック論争」と呼ばれ、海外では多くのメディアで報道された(ただしマンらの明らかな間違いは結局のところ出典の誤記だけであり、その結論には変わりが無いとされる[2])。

 強調部分は私がしたものだが、ホッケースティックの問題は出典の誤記であって、科学的な結論はこれで「変わりが無い」と言われているのだが、さて、その意味はよくわからない。


まとめちゃっている とか、強調の仕方とか、言葉遣いに finalvent さんの気持ちがにじみ出ている気がします。いや、finalvet さんほどの人ですから、戦略的に言葉を選ばれているはずで、いろいろな意味があるのでしょうが。


この続きに書いてある文でも


今回のクライメイトゲート事件で、依然「変わりが無い」かどうかだが、結論を先に言えば、ホッケースティックのことは過去のことにして、地球温暖化の議論は盤石であるということなんで、もうそんな古い話はすんなよ、ということになるので、「変わりが無い」とは言えるかもしれない。


"過去のことにして"、"もうそんな古い話はすんなよ"とは、私の感情でもあるのですが、他の人に書かれるとなんだか納得いかない (笑) 。あと、「変わりが無い」とは言えるかもしれない。、「とは」「かもしれない」って…。ずいぶんと奥ゆかしい。


重要なのは、これらのまとめが、なんら地球温暖化の知見には寄与してないことで、どうやらクライメイトゲート事件自体は、地球温暖化懐疑論とは独立していると見てよい。


これについて、今回の事件はなんら地球温暖化の(科学的)知見には寄与していない、というのは正しいです。新しい観測事実が出てきたわけではないので。ホッケースティックが否定されようと、それは数ある証拠の中の一つでしかなかったわけだし。


一方で、地球温暖化懐疑論と独立している、というのはちょっと違うかな、と思います。地球温暖化問題は、科学で閉じているわけではなくて、経済的、政治的側面も重要。そのカウンターパートである懐疑論も同様。


科学的にはなんてことのないこの事件、私みたいな人間にはどうでも良い。でも、科学的でないからこそ、一般の人にはアピーリングであるし、それだけに政治的には重要です。climategate は懐疑論ど真ん中の事件だと思います。もちろん、finalvent さんのこの記事も、懐疑論ど真ん中であるように感じられます。


記事を読んで、自分が懐疑論と距離を置いていると表明しつつも、心の中では温暖化側の科学者は信頼おけないと強く思っていらっしゃるという印象をうけました。


climategate に関しては、まあ健全な懐疑だとおもいます。あんな文章が出たら、温暖化の科学なんて信頼できない、と思うのはごくごく普通の感覚だと思いますし、だからこそ、懐疑論の方々がこぞって取り上げているわけです (私としてはげんなりするだけなのですが)。


もし温暖化の科学が信頼できないと思っていらっしゃるのなら、それを素直に表明してもらいたいし、信頼しているなら、もっとあっさりとした言葉遣いをしていただけたら、と個人的には思うわけです。
(まあ、でも、その辺が finalvent さんの味なのかもしれませんが。)


健全な懐疑論を唱えていわれなきバッシングを受けたら、それは相手が不健全なわけだから、finalvent さんの読者はちゃんとわかってくれるのではないでしょうか。どうもバッシングを避けようと努力されているように見受けられるのですが、そこまでするほどの痛烈な攻撃があるのかいな?


この件に関しては、他にも記事を書いています。記事はたいしたこと書いていませんが、そこで引いている増田耕一さんの記事は参考になるかと思います。

http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20091122/1258883125

こちらもほんのちょっとだけ関係があります

http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20091128/1259335926


2009-12-01 追記


池田さんのところでホッケースティックが報告書から消えたかどうかが話題になっていますが、消えていません。ただ、確かに政策決定者向け要約 (SPM) からは消えました。池田さんfinalvent さん両方とも、はそれをもって Mann の図が IPCC レポートから消えた、としています。(追記; 誤解とのコメントがあったので、修正しました。他にも消去箇所あり)


finalvent さんはともかく、池田さんはねぇ。曲がりなりにも学者なんだから、正確に SPM から消えたと言えばいいのにな、と思います。その方が説得力が増すのに。


で、SPM から消えたことについてですが、最新の IPCC レポートは 2007 年の発表、ホッケースティックのような前世紀の研究がそのまま SPM (SPM に限りませんが) に載るなんてことがあるのかな?載らないのは普通だと思います。温暖化の科学にとって、10 年近く前の研究は、本当に"古い話"なんですよ。


ただ、古気候で温度を復元したデータは AR4 の SPM に載っていないみたいなので (古気候的なデータとしてはCO2 やメタンの "ホッケースティック" が掲載されている)、その点を指摘するのはいいかもしれません。


ほかにも、レポート本体でホッケースティック論争について触れてあるなど、IPCC が気にしていることは事実なので、その辺をうまくつけばもっとおもしろいのにな、と思います。


だれか、きちんと IPCC レポートを読んでいる懐疑論者、いないかな?