やっぱり経済学者の方は

気候学にそこはかとない親近感を持っていらっしゃるようで。


マクロ経済学と気象学の比較 -- himaginaryの日記
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20091126/macroeconomics_and_climate_science


元記事はこちら

Macroeconomics and Climate Science: compare and contrast
http://worthwhile.typepad.com/worthwhile_canadian_initi/2009/11/macroeconomics-and-climate-science-compare-and-contrast.html#


Climate Science は「気象学」よりも「気候学」がいいかな?climatology という単語もあるので、「気候科学」かとすべきかもしれないけど。


気候学に近い立場からのコメントとですが、類似性の点、1. から 3. は、特に言うことはありません。


4. 両方とも政治問題化する。「誤った」政策は大きな損害をもたらし得る。また、人々のマクロ経済学と気象学に関する信条は(不完全ながら)その政治的信条と相関する傾向がある。


これは私には違和感がありまして、どちらかというと政治信条よりも気象学教育を受けたか否かに相関があります。でも、懐疑論の隆盛からそう思われているんでしょうね。


相違点の方は、


1. マクロ経済学は人々を説明しようとする。気象学はそうではない。人々は説明の対象としてはより厄介である。特に、人々の行動は、彼らの将来の予想に依存するので、因果関係のモデル化においてラグだけでなくリードも考えなくてはならない。これは我々の仕事をより困難にする。


これはそうでしょう。経済学者の仕事は気候学者よりはるかに困難。


2. 私の考えでは、我々のデータの方が扱いやすい。もし我々が貨幣のインフレに与える影響を見ようと思ったら、異なる国のデータを見ることもできるし、歴史上の異なる時点の出来事を見ることもできる。もし彼らがCO2の気温に与える影響を見ようと思ったら、彼らの手元には世界全体のデータしかない。また、我々は歴史的記録の中に数多くの自然の実験を有している。これは我々の仕事をより容易にする。


これはそう単純ではなくて、CO2 温暖化の観点に限っても他の惑星を参考にすることもできるし、古気候を学ぶこともできるし、世界全体のデータといっても昨今では衛星観測で膨大で詳細なデータが得られています。どちらが容易かはわからないと思う。


3. 我々のデータのあるものは、S/N比を敢えて小さくしようとする政策当局によって生成される。インフレ目標を達成しようとして金融政策を行なう中央銀行が一例。そうしたデータは、自然の実験としては無意味だ。その半面、もし中央銀行がインフレを目標の近辺に維持することに成功すれば、その中央銀行が使っているマクロ経済理論がどんなものであれ、おそらく概ね正しいということになる。


これはおもしろい違いですね。経済学の場合、研究対象を理論に合わせることができる、ということですか。なるほど。一方で、CO2 温暖化も壮大な実験と考えられるのですが。


4. マクロ経済学は気象学より古い。貨幣が価格に影響するという理論は、CO2が気温に影響するという理論より古い。貨幣数量説の人気は、盛んになっては衰え、盛んになっては衰え、といったことを長年繰り返してきた。


どうなんですかね?温暖化理論は 100 年強の歴史です。ケインズくらいのころからは知られている、ということでしょうか?経済学史を知らないので貨幣理論がどれほど古いか知りません。


一方で、温暖化理論の方は、盛んになっては衰え、という変化はなくて、気象学を学んだ人間はかなり前から常識として知っていて、盛り上がったのは Keeling らの観測で大気中の CO2 濃度が増加しているのが知られてから、ということになると思います。


5. マクロ経済学の「主流」や「コンセンサス」について語ることはまったく無意味とは言わないが、競合するアプローチの間に顕著な意見の相違があるのも事実である。たとえば、あまり厳密な定義をしなければ、貨幣数量説のある種のバージョンはマクロ経済学者の大部分に受け入れられるだろう。しかし、重要な少数派はそれを拒否するだろう。マクロ経済学の自明でないことで、ほぼすべての場合にほぼ確実だとされることを思いつくのは難しい。


これは大きな違いですね。気候学の場合、温暖化する、という定性的なところはまあ争いがありません。何度上がるか、という定量的なところはまだ意見の一致が見られていない、というより、まだだれも確実に知らない、ということでしょうが。


一部、反論っぽくなりましたが、私の意見、ということで。このような論考でどちらが正しいかを決めるのはあまり意味がないと思います。


おもしろい記事が読めて良かったと思っています。例のクライメイトゲート事件がきっかけで元記事が書かれたみたいなのですが、そう考えるとあのへんてこな事件のおかげでこの記事が読めたわけですね。


経済学と気候学については、以前、こんな考察をしたことがありました。
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20091103/1257214167


クライメイトゲート事件については、こちらでちょっと触れています。
http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20091122/1258883125


11/29 リンク間違いを訂正しました